第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-2] 一般演題:精神障害 2

2023年11月10日(金) 14:30 〜 15:30 第5会場 (会議場B2)

[OH-2-4] 行動活性化理論に基づいた短期介入の効果

新岡 拓1, 津川 亮介2 (1.合同会社さよなき 訪問看護ステーションれんげ草かがわリハビリテーション部, 2.香川大学医学部附属病院リハビリテーション部)

【緒言】行動活性化療法は構造化されたうつ病の心理療法であり,クライアントが生活の中で強化を受ける経験を増やす活動を活性化させることを目的とした理論である.しかし,行動活性化療法を用いた報告のほとんどが16週の長期介入であり,臨床場面において患者が習得することは困難である.一方で行動活性化理論に基づいた短期介入の効果検証はされていない.今回,気分障害を呈する症例に対して,行動活性化理論に基づいた短期間介入を行い,シングルケースデザインを用いて,その効果を検証した.尚,本発表に際して,本人に書面を用いて同意を得ている.
【対象】30代,女性.診断名は気分障害.家庭内トラブルが多く,飲酒をやめられない.飲酒量は毎日350ml缶を7~8本.倦怠感,意欲低下が強く,ほとんどの時間を自宅で過ごしている.人間関係,身体の不調により症状は安定していない.服薬はサイレース(2)1T,ソラナックス(0.4)1T,フェノバール(30)1T,ネルボン(5)2T.家族構成は本人,夫,娘,義母,夫の弟,夫の弟の息子.
【方法】行動活性化理論に基づいた短期介入の効果判定を目的にABデザインを採用した.作業療法介入以降,傾聴などで認知面に焦点を当てた介入の7日間をベースライン期とし,行動活性化理論に基づいた介入を実施した7日間を介入期とした.評価尺度は,活動スケジュールにおける抑うつ度(0~100%)および飲酒量とした.抑うつ評価として介入前後にはSDSを用いた.分析方法は目視法にて介入前後や時期による傾向や変化を分析した.
【経過】作業療法開始時のSDSは65点であった.目標設定としては,就労であり,その為には「規則正しい生活をする」「ストレスや不安を軽減すること」とした.ベースライン期においては,反すうに対して,散歩や気分転換になるような活動を通して傾聴や服薬管理等を行った.介入期には活動モニタリング,活動スケジュールのフォームを用いた.TRAP,TRACモデルのtriggerに「朝起きられない」という行動を当てはめ,「朝起きて朝日を浴びる,散歩をする」という回避行動をとることを課題とした.初日は体の怠さや抑うつ気分は目立つが,介入期+3日目では「散歩することが楽しみになった」「朝食を作るようになった」といった課題に対してポジティブな発言が見られた.
【結果】活動スケジュールにおける抑うつ度に関しては,介入期において顕著に減少し,介入期間中減少傾向となった.飲酒量に関しては,僅かに減少したものの,私生活のイベントにより飲酒量にばらつきがあったため,効果の確認はできなかった.しかし,会話の中では「嫌になるから飲むではなく,嗜みとして飲むようになった」といった発言がみられ,飲酒の仕方に変化があった.介入後のSDSは42点となった.
【考察】今回,気分障害症例おける行動活性化理論に基づいた短期介入の効果を判定した.活動モニタリングは,反すう思考や抑うつ症状を軽減させ,活動を増加させることが明らかになっている.そして活動スケジュールは行動活性化の中でも中核的な技法であるといえる.これらのフォームは生活背景を可視化し,小目標の達成を実感しやすく,課題達成へのモチベーションの維持につながったと考える.一般的な行動活性化療法は,抑うつ症状が安定してから導入に至り,介入期間が長期にわたる.しかし,本症例においては訪問作業療法における介入であるため,自宅生活に着目し,早期より問題行動の抽出が可能であった.このことより,在宅場面における行動活性化理論に基づいた介入は,短期間においても一定の効果が期待できる.