[OH-3-1] 「パラレルな場」がもたらす自律神経活動への影響の検討
【序論】精神科領域の作業療法では広く集団が用いられている.特にMoseyによる集団関係技能理論(Mosey A.C.,1968)で最も低次に位置づけられる,他者の存在下で最小限の課題の共有を行う「パラレルな場」が多く用いられる.パラレルな場や集団が持つ効果として,普遍的体験を伴う安心と安全感の保障(山根寛,1999)や,希望をもたらすことやカタルシス(Yalom I.D.,1995)などが挙げられるが,その生理学的効果については十分に検証されていない.
【目的】パラレルな場が持つ生理学的効果を検討し,作業療法で集団を用いることの有用性を明らかにすることを目的とした.
【方法】健常大学生30名を対象に,作業活動中の自律神経活動を測定した.作業活動は先行研究(Shiraiwa et al.,2020)に倣いネット手芸を用い,単独,パラレル,非パラレルの3条件を3分間ずつ実施した.単独条件は被験者が1人で作業を,パラレル条件では被験者と親密な他者1名がそれぞれの作業を行った.非パラレル条件では被験者のみが作業を行い,親密な他者は作業を行わず作業活動を観察した.各条件の前後に1分30秒の安静条件を設け,実験順序はランダムに設定した.心電図計(携帯型心電図アンプPolyam(ECG)ⅡB)により心拍R-R間隔(RRI)を測定し,Lorenz plot解析(Toichi et al.,1997)により自律神経活動を算出した.各条件の終了直前50拍から算出した交感神経活動の指標:Cardiac Sympathetic Index(CSI),副交感神経活動の指標:Cardiac Vagal Index(CVI),RRIから,各条件の開始時50拍から算出したCSI,CVI,RRIの値を減算し,それぞれの変化量を算出した.各変化量を一元配置分散分析により条件間比較を行い,Tukey法による事後検定を行った.統計処理にはIBM SPSS Statistics28.0.0.0(190)を使用し,有意水準は5%未満とした.本研究は筆頭著者の所属先及び研究実施施設の研究倫理委員会の承認を得て行い,書面による同意が得られた者のみを対象者とし,開示すべき利益相反する企業等はない.
【結果】平均年齢は20.17±0.91歳(男性18名,女性12名)であった.CVI変化量は単独条件が-0.11±0.23,パラレル条件が0.05±0.22,非パラレル条件が-0.05±0.25で,3群間に有意差を認めた(p=0.029).多重比較の結果,パラレル条件は単独条件よりも有意に正方向に大きかった(p=0.023).パラレル条件と非パラレル条件間(p=0.226),単独条件と非パラレル条件間(p=0.562)では有意差は認められなかった.
【考察】パラレルな場での作業活動は副交感神経活動を高めることが明らかになった.同種の動物が存在することで嫌悪体験からの回復が良好になる社会的緩衝効果(Kikusui et al.,2006)や,ストレス環境下で社会的支援を求める傾向が強まるtend and befriend理論(Taylor et al.,2000)が報告されている.作業療法におけるパラレルな場でもこれらの効果が生じたことで,副交感神経活動が上昇したと考えられる.今後,この効果を説明する脳科学的機序や対象者の主観状態を測定し,作業療法の治療構造の有用性に関する多元的なエビデンスを構築していくことが必要であると考えられる.
【目的】パラレルな場が持つ生理学的効果を検討し,作業療法で集団を用いることの有用性を明らかにすることを目的とした.
【方法】健常大学生30名を対象に,作業活動中の自律神経活動を測定した.作業活動は先行研究(Shiraiwa et al.,2020)に倣いネット手芸を用い,単独,パラレル,非パラレルの3条件を3分間ずつ実施した.単独条件は被験者が1人で作業を,パラレル条件では被験者と親密な他者1名がそれぞれの作業を行った.非パラレル条件では被験者のみが作業を行い,親密な他者は作業を行わず作業活動を観察した.各条件の前後に1分30秒の安静条件を設け,実験順序はランダムに設定した.心電図計(携帯型心電図アンプPolyam(ECG)ⅡB)により心拍R-R間隔(RRI)を測定し,Lorenz plot解析(Toichi et al.,1997)により自律神経活動を算出した.各条件の終了直前50拍から算出した交感神経活動の指標:Cardiac Sympathetic Index(CSI),副交感神経活動の指標:Cardiac Vagal Index(CVI),RRIから,各条件の開始時50拍から算出したCSI,CVI,RRIの値を減算し,それぞれの変化量を算出した.各変化量を一元配置分散分析により条件間比較を行い,Tukey法による事後検定を行った.統計処理にはIBM SPSS Statistics28.0.0.0(190)を使用し,有意水準は5%未満とした.本研究は筆頭著者の所属先及び研究実施施設の研究倫理委員会の承認を得て行い,書面による同意が得られた者のみを対象者とし,開示すべき利益相反する企業等はない.
【結果】平均年齢は20.17±0.91歳(男性18名,女性12名)であった.CVI変化量は単独条件が-0.11±0.23,パラレル条件が0.05±0.22,非パラレル条件が-0.05±0.25で,3群間に有意差を認めた(p=0.029).多重比較の結果,パラレル条件は単独条件よりも有意に正方向に大きかった(p=0.023).パラレル条件と非パラレル条件間(p=0.226),単独条件と非パラレル条件間(p=0.562)では有意差は認められなかった.
【考察】パラレルな場での作業活動は副交感神経活動を高めることが明らかになった.同種の動物が存在することで嫌悪体験からの回復が良好になる社会的緩衝効果(Kikusui et al.,2006)や,ストレス環境下で社会的支援を求める傾向が強まるtend and befriend理論(Taylor et al.,2000)が報告されている.作業療法におけるパラレルな場でもこれらの効果が生じたことで,副交感神経活動が上昇したと考えられる.今後,この効果を説明する脳科学的機序や対象者の主観状態を測定し,作業療法の治療構造の有用性に関する多元的なエビデンスを構築していくことが必要であると考えられる.