[OH-4-1] 統合失調症患者へのRey複雑図形模写課題の臨床応用
【はじめに】統合失調症患者の社会適応の困難さには,精神症状よりも認知機能障害が強く関連しており,認知機能障害の程度は患者の機能的転帰を予測する重要な指標とされている(Greenら2000,住吉ら2021).本邦では,統合失調症の認知機能評価として統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS-J)が広く用いられているが,日常の臨床で使用するためには,さらに短時間で測定したいとの声も多く聞かれる(兼田ら2021).一方,剣持ら(2013)は,認知症患者を対象に,Rey複雑図形模写課題を用いて遂行機能障害を評価する簡易尺度(以下,遂行機能簡易評価尺度)を作成し,妥当性を示した.この遂行機能簡易評価尺度は,作業を用いた評価であり,短時間で容易に施行,採点できる簡便さを備えていることから,日常的な臨床場面でも有用であると考えられている.本研究の目的は,統合失調症患者への遂行機能簡易評価尺度の臨床応用に向けて,本評価尺度における統合失調症患者と健常者の比較,さらにはBACS-Jとの関連,および普段の作業療法での様子(観察)との関連を明らかにすることである.
【方法】対象は,当院入院中で作業療法の指示がでている20代~60代前半の統合失調症患者25名(49.1±9.2歳)で,発達障害や認知症など他の診断がついている患者は除外した.対照群として健常成人25名(49.1±10.7歳)とした.Rey複雑図形模写課題の方法は,Lezak(2004)の方法に準じて実施した.A4の白紙を被検者正面に提示し,その向こう側に見本の用紙を提示した.検者はあらかじめ数色の色鉛筆を用意し,検査開始から1分ごとに異なる色鉛筆を被検者に手渡し模写をさせた.検者は使用した色の順序を記録し,遂行機能簡易評価尺度を用いて課題遂行のための計画性を評価した.統計学的分析では,遂行機能簡易評価尺度における統合失調症患者群と健常成人群との差を検討し,Rey複雑図形模写課題の一般的な評価(模写の正確さの評価)であるOsterrieth法,および模写の所要時間との関連を検討した.さらに,BACS-Jの遂行機能評価であるロンドン塔検査との関連,および普段の作業療法での様子(作業遂行特性評価,山根2017)との関連を検討した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認(承認番号2022-1)を得て実施し,対象者には本研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た.
【結果】統合失調症患者群における遂行機能簡易評価尺度の成績は,健常成人群に比べ有意に低下し(p<0.01),Osterrieth法の成績との間に有意な正の相関を認めたが(相関係数ρ=0.425 p<0.05),模写の所要時間との間には有意な相関はみられなかった(ρ=-0.276).また,両群ともに遂行機能簡易評価尺度とロンドン塔Zスコアとの間に有意な正の相関を認めた(統合失調症患者ρ=0.485 p<0.05,健常成人ρ=0.478 p<0.05).さらに統合失調症患者群では,遂行機能簡易評価尺度と作業遂行特性評価における複数の項目との間に有意な正の相関を認め,相関係数が高い上位2項目は,「作業速度(ρ=0.67 p<0.01 )」と「行程の理解 結果の予測(ρ=0.588 p<0.01)」であった.
【考察】統合失調症患者は,健常成人に比べ遂行機能簡易評価尺度の成績低下を認めた.また,遂行機能簡易評価尺度と他の評価との相関については,一般的に相関係数0.4~0.7は中等度の相関と解釈されるため(廣瀬ら2010),有意ではあるが強い相関ではないと考えられた.場所や環境を選ばず数分で実施できる本評価は,精神科作業療法の初期面接や集団プログラムの中でも使用できる可能性があるが,他の評価と組み合わせて対象者の遂行機能を捉える必要性が確認された.
【方法】対象は,当院入院中で作業療法の指示がでている20代~60代前半の統合失調症患者25名(49.1±9.2歳)で,発達障害や認知症など他の診断がついている患者は除外した.対照群として健常成人25名(49.1±10.7歳)とした.Rey複雑図形模写課題の方法は,Lezak(2004)の方法に準じて実施した.A4の白紙を被検者正面に提示し,その向こう側に見本の用紙を提示した.検者はあらかじめ数色の色鉛筆を用意し,検査開始から1分ごとに異なる色鉛筆を被検者に手渡し模写をさせた.検者は使用した色の順序を記録し,遂行機能簡易評価尺度を用いて課題遂行のための計画性を評価した.統計学的分析では,遂行機能簡易評価尺度における統合失調症患者群と健常成人群との差を検討し,Rey複雑図形模写課題の一般的な評価(模写の正確さの評価)であるOsterrieth法,および模写の所要時間との関連を検討した.さらに,BACS-Jの遂行機能評価であるロンドン塔検査との関連,および普段の作業療法での様子(作業遂行特性評価,山根2017)との関連を検討した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認(承認番号2022-1)を得て実施し,対象者には本研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た.
【結果】統合失調症患者群における遂行機能簡易評価尺度の成績は,健常成人群に比べ有意に低下し(p<0.01),Osterrieth法の成績との間に有意な正の相関を認めたが(相関係数ρ=0.425 p<0.05),模写の所要時間との間には有意な相関はみられなかった(ρ=-0.276).また,両群ともに遂行機能簡易評価尺度とロンドン塔Zスコアとの間に有意な正の相関を認めた(統合失調症患者ρ=0.485 p<0.05,健常成人ρ=0.478 p<0.05).さらに統合失調症患者群では,遂行機能簡易評価尺度と作業遂行特性評価における複数の項目との間に有意な正の相関を認め,相関係数が高い上位2項目は,「作業速度(ρ=0.67 p<0.01 )」と「行程の理解 結果の予測(ρ=0.588 p<0.01)」であった.
【考察】統合失調症患者は,健常成人に比べ遂行機能簡易評価尺度の成績低下を認めた.また,遂行機能簡易評価尺度と他の評価との相関については,一般的に相関係数0.4~0.7は中等度の相関と解釈されるため(廣瀬ら2010),有意ではあるが強い相関ではないと考えられた.場所や環境を選ばず数分で実施できる本評価は,精神科作業療法の初期面接や集団プログラムの中でも使用できる可能性があるが,他の評価と組み合わせて対象者の遂行機能を捉える必要性が確認された.