第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害/MTDLP

[OH-4] 一般演題:精神障害 4

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第7会場 (会議場B3-4)

[OH-4-3] 精神科作業療法におけるMHSQ-Jおよび失体感症尺度の臨床応用可能性

村田 雄一1, 川口 敬之2, 山元 直道1, 須賀 裕輔1, 森田 三佳子1 (1.国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院精神科リハビリテーション部, 2.国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)

【はじめに】近年,精神疾患治療におけるセルフマネジメントの重要性が指摘されているとともに(Lam RW et al, 2016),失体感症をはじめとする身体感覚の支障に対する具体的方策が注目されている.セルフマネジメントは,日常生活の中で健康状態の改善と健康維持のために自分自身の困難や懸念に対処することであり(Lorig KR et al, 2003),地域生活における精神疾患をもつ者を対象とした日本語版Mental Health Self-management Questionnaire(MHSQ-J)(Morita Y et al, 2019)が開発されている.他方,失体感症とはIkemi(1979)によって提唱された心身症をもつ者の身体感覚の低下状態を表す概念であり,評価指標として失体感症尺度(Shitsu–taikan–sho scale: STSS)(Arimura T et al, 2012)がある.精神科急性期病棟の精神科作業療法(POT)において,入院患者からセルフマネジメントに関する課題感や,失体感症に関する主訴を聴取することがあるにも関わらず,適した評価指標は特定されていない.本研究の目的は,精神科急性期病棟の入院患者を対象に,セルフマネジメントおよび失体感症に関連した個別目標の達成度の推移とMHSQ-JおよびSTSSの関連を分析することにより,それら評価指標の臨床応用可能性を予備的に検討することである.
【方法】研究デザインは症例集積研究とした.対象の適格基準は,2021年11月~2022年6月の期間において,①精神科急性期病棟の入院患者,②POTを実施した者,③セルフマネジメントおよび失体感症に関連した個別目標を聴取した者とした.評価は目標達成度(10段階のVisual analogue scale)とともにMHSQ-JおよびSTSSの評定を行い,POT開始時と退院時を評価時期とした.POTは集団または個別,あるいはそれらの組み合わせで実施され,セルフモニタリング表の作成や病状悪化の振り返りなどを行った.分析は,統計パッケージR (version 4.2.2)を用いて,Wilcoxon符号付き順位検定を実施し,介入前後の各評価スコアを比較した.また,目標達成度を目的変数,MHSQ-JならびにSTSSの評価スコアを説明変数とした一般線形モデルを構築し,目標達成度に関わる因子を推定した.統計学的有意水準はp < 0.05とした.本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(A2022-032).
【結果】対象は47例(うち女性39例),年齢は38.1±16.6歳,入院期間は45.9±30.5日であった.各評価の平均[POT開始時,退院時,Wilcoxon符号付き順位検定におけるp値]は,目標達成度[2.8±1.7,6.5±2.5,p<0.001],MHSQ-J[28.8±10.7,41.7±11.0,p<0.001],STSS[64.3±14.2,58.1±12.1,p<0.001]であり,POT実施前後で有意な改善がみられた.一般線形モデルによる分析の結果,目標達成度の有意な因子[推定値,p値]は,MHSQ-J[0.06,p=0.002]であり,STSS[-0.02,p=0.215]は有意ではなかった.MHSQ-Jを目的変数とした一般線形モデルによる追解析の結果,STSSはMHSQ-Jの有意な負の因子であった[-0.178,p=0.04].
【考察】結果より,目標達成度ならびにMHSQ-J,STSSに改善が見られ,POT実施が患者の生活リズムや対処技能の獲得といったセルフマネジメントや失体感症の改善とともに,主観的な目標達成度の向上に寄与することが示唆された.また,MHSQ-Jはセルフマネジメントや失体感症に関連する目標達成度の因子,STSSはセルフマネジメントの因子であった.入院期間の短期化や疾病およびニーズの多様化に伴い,セルフマネジメントや失体感症の改善に対応可能なPOTが求められる中,MHSQ-JおよびSTSSはPOTにおける効果指標として有用であることが示唆された.