第57回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-2] 一般演題:発達障害 2

Fri. Nov 10, 2023 3:40 PM - 4:50 PM 第4会場 (会議場B5-7)

[OI-2-3] 刑務所でワークサンプル法を実施した結果,就労に至った一事例

宇都 みずき, 山田 健次 (小学館集英社プロダクション播磨社会復帰促進センター)

【はじめに】刑務所では,約3年前から作業療法士の常勤雇用が始まり,その業務は高齢や障害のある受刑者に対し刑務作業や改善指導の受講がスムーズに行えるよう集団活動を取り入れてグループで支援することが多い.今回は,衝動性コントロールが難しい知的障害のある受刑者に対し,関係作りに時間をかけ,約半年間個別的にOT介入を行った.その結果,心情が安定し,出所後の就労へと繋がった経過を以下報告する.なお倫理的配慮として,対象者の同意と本センターにおける個人情報保護及び情報の取扱いに関する規定を遵守し報告に関して本センター長の許可を得ている.
【事例報告】A氏40代男性,疾患名は自閉症スペクトラムでWAIS-ⅢのFIQ相当値60.VIQ94,PIQ57.入所直後から心情不安定な状況が続いていたが,入所約8か月後にコミュニケーション能力向上,情動コントロール改善を目的にOTが処方された.(刑期は約1年2か月)
【内容】刑務官立会のもと,多目的ホールにおいて週1回,計23回(約6か月)実施した.
【経過】初回面接での緊張が高く,最初の3か月は関係性構築のため,歴史や城が好きなA氏の興味に合わせてペーパークラフトの城を作製したり,「勉強がしたい」というニーズのもと計算ドリル課題などを取り入れた.その結果,課題中の笑顔や発言が増え,OT以外の時間でも安定した状態が続いた.その後,就労支援を進める中で,本人の希望する就労継続支援A型事業所(以下A型事業所)の利用が検討され,その候補となる事業所の作業内容を一定量達成できれば利用可能と判定してもらえるということになった.そのためワークサンプル法を用いて,所内で作業遂行評価を行った.結果,作業遂行量のノルマは未達成であったが,慣れた環境であれば作業に集中できること,作業を繰り返し行えば作業の効率化が図れるという特性が判明し,A型事業所の利用が可能となった.一方で,住居支援として事業所近くのグループホームへの入居が決定すると,A氏が出所後の生活に対する不安を訴えるようになった.そのため,オンラインでOT支援が可能なgo-go-OT-NETの紹介等の社会資源を情報提供すると共に,各関係機関に対象者の障害特性等を共有し,フォローアップ体制を整えて,不安の軽減を図っていった.
【考察】触法障害者が,再犯することなく地域で安心して暮らすためには,刑務所内での生活の安定だけに目を向けるのではなく,出所後の地域生活に焦点を当てる必要がある.そして,対象者が地域で自分らしい生活が送れるよう,入所中から対象者の社会生活に即した実践と,地域の関係機関と連携し,必要な支援体制を整えることが必要と考える.
【参考文献】
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの現状と今後について 菊入恵一