第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-2] 一般演題:発達障害 2

2023年11月10日(金) 15:40 〜 16:50 第4会場 (会議場B5-7)

[OI-2-5] 注意欠如多動症が疑われる幼児に対し,Cognitive-Functional(Cog-Fun) を基盤とした介入により子どもの作業遂行が向上した1事例

岩永 裕人1,2, 前田 航大2,3, 川中 瑞帆2,4, 東恩納 拓也5, 岩永 竜一郎2 (1.長崎市障害福祉センター, 2.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科, 3.社会福祉法人ことの海会 ふわり諫早, 4.社会福祉法人 南高愛隣会, 5.東京家政大学)

【はじめに】
Cognitive-Functional(Cog-Fun)介入は,注意欠如・多動症(AD/HD)児に対する作業参加の促進を目的とした作業中心の生態学的介入である.諸外国ではその有効性が示唆されているが(Maeir et al.,2014; Hahn-Markowitz et al.,2020),本邦では実践報告がない.
【目的】
AD/HDが疑われる幼児にCog-Funを基盤とした介入を4回実施後,子どもの作業遂行の向上に一定の効果がみられたためその経過を報告する.本報告は,本邦でのAD/HD児に対する作業療法の発展の一助となることを目的とする.報告は保護者からの同意を得ており,開示すべきCOIはない.
【事例紹介】
A君は保育園に通う4歳の男児(年中)で,AD/HDの疑いがある.新版K式発達検査は全領域91.保護者はA君の衝動性の高さや落ち着きのなさを悩んでいた.具体的なエピソードとして,「車で外出した際,駐車場に到着するとすぐに降車し,一人で走って行ってしまうこと」が挙げられた.
【評価と介入】
Cog-Fun介入のプロトコールは全部で12~14回 (毎週各1時間)で実施されるが,本報告では週1回の頻度で介入5回目まで実施した.介入1回目は保護者に面接を行い,Cog-Funの概要説明やCOPMを用いて目標設定を実施.目標の一つに「A君は外出先の駐車場で保護者と一緒に行動できる (重要度/遂行度/満足度:8/2/3)」が挙がった.介入2回目は,A君とのラポール形成のためゲームを実施した.また,A君にセッションの手順や小道具(スケジュール,宝箱など)の概要説明をした.介入3回目は前回の復習に加え,A君の自己認識や強みを特定するために,Pictorial Interview of Children’s Metacognition and Executive Functions(PIC-ME)を使用した(Traub Bar-Ilan, et al.,2013).介入4回目はA君が実行戦略を習得することを目的とした.まず,戦略「STOP(とまる)」の概念を説明し,様々な遊びの中で戦略を使用する機会を設けた.その後,PIC-MEの実施や,A君と保護者との話し合いを通じて,「STOP」を要する日常場面を特定しシミュレーションした.最後に,A君や保護者と一緒に実生活の中で戦略を使用することが組み込まれた目標を設定し適用するように促した.5回目の介入開始前に,COPMを再度実施した.
【結果】
COPMが遂行度2→5,満足度3→5へと向上した.保護者からは,「車で外出時に,降車し終わったA君に母親が『STOP』と言いながら身振りを示すと,A君も身振りを模倣して立ち止まることができた」「A君が横断歩道の標識を見て,立ち止まることができた.その後,A君は母親に対し,立ち止まれたことを筆頭著者に伝えるようにお願いすることがあった」などの報告が得られた.
【考察】
COPMが向上した要因として,「A君が実行戦略を習得し,日常の場面で転移することを目的に段階的に介入したこと」や「目標として特定した文脈で保護者が戦略使用をガイドし,A君が自分の遂行エラーを認識できるようになったこと」が考えられる.また,A君の中で様々な状況から類似性を認識できるようになったことが「横断歩道で止まる」という近位転移につながった可能性がある.本邦においても,Cog-Funを基盤とした介入はAD/HDが疑われる幼児の作業遂行の向上に一定の効果をもたらすことが示唆された.今後,本邦でCog-Fun介入を導入していくために,本事例の経過を調査することや事例数を集積していくことが重要である.