第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-2] 一般演題:高齢期 2

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:30 第6会場 (会議場A2)

[OJ-2-4] 高齢労働者における作業バランス達成のための戦略に関する質的研究

吉田 唯乃1, 坂上 真理2 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科 理学療法学・作業療法学専攻, 2.札幌医科大学保健医療学部 作業療法学科)

【序論】作業バランスとは,「人が望みや価値に適合した方法で作業を組織化し,作業を行うことができること」(Christiansen CHら,2010)とされ,健康的な生活を送るためには,生活を構成する作業間のバランスについての考慮が不可欠とされている.現在の我が国では高齢化が進む中で,高齢者雇用の促進が進められている.労働力の確保といった経済的効果とともに,長くなった人生において健康で,社会に参加できる最適な機会が常にあるように高齢者の就労への取り組みが強化されている.
【目的】本研究では,高齢者が就労を継続するために作業バランスの戦略が必要であると考え,よりニーズの高まりつつある高齢期の就労生活における作業バランスの戦略を明らかにすることを目的とした.なお,得られた知見は支援方法を検討する際の基礎的資料とする.
【方法】研究参加者は,北日本A市内に住む65歳以上の健常高齢者のうち,事業所等で賃金を支払われる者とした.参加者の募集は医療機関委託業者等に所属する研究参加者の雪だるま式対象選択を用いた.調査方法は,半構造化面接を一人につき1回,45分〜1時間程度行った.その他,対象者の属性と基本的特性を明らかにするためにフェイスシートを,1日の時間の使い方を知るために時間使用調査票を使用した.面接データ分析の方法には,質的研究法である戈木版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた(戈木クレイグヒル滋子,2016).本研究は,著者が所属する機関の倫理委員会の承認(承認番号4-1-12)を得て,研究参加者には個人情報の保護と倫理的配慮について説明し,同意を得て実施した.
【結果】研究参加者は,65歳から77歳の男女合計9名であった.平均年齢は71.2(±4.68)歳,雇用形態は,全員非正規雇用で,就労時間は平均5.2時間であった.分析の結果,高齢労働者の作業バランス戦略について,6つのカテゴリーが明らかとなった.参加者は過去の経験や日々の生活から《日常生活における健康や作業バランスのリスク》を感じる中でも《短縮化された就労形態》に支えられた《責任感のある作業へのインボルブメント》により活動性が促されていた.責任感のある作業としての仕事をしながらも《理想の作業や作業パターンを創造するための工夫》がなされ,そこから《二次的作業による作業バリエーションの増加》が起こり,こうした仕事及び仕事から生まれた二次的作業への従事から得られる作業経験によって参加者は《作業バランスに必要な作業経験の充足》がなされていた.
【考察】今回の結果では,参加者が作業バランスの不均衡な状態やそのリスクを経験する中で,より調和の取れた作業パターンへの変更の一助が仕事となっており,仕事を始めること/仕事を続けること自体が作業バランスの戦略の一つとなっていたことが示唆された.作業バリエーションの増加は,作業バランスの認識に必要であり,健康や幸福に結びつくとされている(山根奈那子ら,2022).本研究の参加者も,仕事をすること及び新たに生まれた二次的作業から作業バランスに必要な作業経験を認識するとともに,作業バリエーションの増加から作業バランスを認識していたと考える.さらに,高齢者は自身の問題に対して対処する方法を生み出しながら(Baltes PBら,2019),作業バリエーションを利用し,より調和のとれた作業の組み合わせを目指して,作業パターンを変更していたことが見出された.本研究の知見から高齢者の就労支援における介入で仕事そのものを作業バランスへの戦略要素として捉えていく必要があると考える.