第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-3] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

2023年11月11日(土) 14:50 〜 16:00 第3会場 (会議場B1)

[OK-3-3] かぶり型衣服の着衣障害に対し衣服内側にランドマークを貼付することで奏功した症例

山本 潤1, 前田 眞治2, 菅原 光晴3, 高木 良真4, 杉崎 日向子4 (1.国際医療福祉大学小田原保健医療学部 作業療法学科, 2.国際医療福祉大学大学院リハビリテーション学分野, 3.清伸会ふじの温泉病院リハビリテーション課, 4.静岡市立清水病院リハビリテーション技術科)

<序論>着衣障害のリハビリテーションには,要因となる高次脳機能障害に対する機能回復訓練,動作の反復練習,衣服へのランドマークの貼付などの環境設定が挙げられる.その中でランドマークの貼付は,患者の状態に合わせて検討することとし具体的な貼付位置まで言及されていない(山本:2022).今回,いくつかの貼付位置で試みたところ,既報告にない衣服の内側にランドマークすることが最も良好な結果を示したため,その要因を検討した.
<目的>着衣障害に対する介入の一つであるランドマークの貼付について,いくつかの貼付位置で比較し,効果的な貼付位置を見出すことを目的とする.なお,入院先の倫理審査委員会の承認を得て,患者本人に口頭と書面にて説明し同意を得ている.
<症例>80歳代前半,右利き男性.右側脳室三角部-後角部を主座とした右側脳室髄膜腫後の水頭症で入院となった.運動感覚障害や視野障害は認めない.入院第2日から着衣障害を認め,神経心理学的所見は左半側空間無視,構成障害,触覚性消去現象,メンタルローテーションの障害を認めた.入院第8日にシャント術施行するも,入院第9~15日の評価では着衣障害は残存し,神経心理学的症状は変化なかった.
<着衣障害>入院第2日に左袖を左肩まで引き上げることができない問題などを認めたが,術後となる入院第9日には,対応する袖と腕を合わせることができない誤り(袖探索に難渋)が残存した.着衣関連評価として,衣服,身体それぞれを目の前に呈示した状態では各部位の認知に問題はなかった.
<介入:ランドマーク>対応する袖と腕を合わせることができない誤りに対して,ランドマークの貼付を試みた(入院第21日).今回,ランドマークの貼付物品を洗濯ばさみとシールの2種とし,貼付位置を衣服胴部の内側と外側の2通りで実施した. 着衣時間を計測し,所要時間は評価者の合図を開始とし,終了は患者の合図とした.1日2回計6日間実施し,それぞれのパターンで12回の所要時間を計測した.各パターンの平均所要時間を結果として示す.
<結果>平均所要時間は,洗濯ばさみ(内側)38.67(SD42.53)秒,洗濯ばさみ(外側)68.00(SD44.23)秒,シール(内側)70.67(SD34.92)秒,シール(外側)88.33(SD41.81)秒であった.いずれも内側にランドマークした方が,所要時間は短かった.またシールに比べ,洗濯ばさみの方が早い結果となった.なお,いずれの条件においても着衣は完遂可能であった.最終的に入院第38日には,ランドマーク使用での着衣動作は定着し自宅退院となった.
<考察>本例は洗濯ばさみを用いて衣服内側にランドマークすることで着衣時間は最も短かった.まず貼付する物品については,より立体的なものの方が目印としては探索しやすかったと考える.また添付位置の内側・外側の観点では,衣服外側に貼付するのを散見することが多い.本例の場合,呈示した衣服,つまりは静的条件では各部の同定が可能なことから,実際の着用時に衣服と身体の各部を合わせることが困難になると予想される.これは,着衣特異の要素である経時的形態変化を捉える能力の問題が影響していると指摘される.そのため動作過程での衣服の中に身体を入れていく過程では,衣服内側にランドマークがあることが衣服と身体の対応する部位を探索,照合しやすくさせたのかもしれない.今後はランドマークを貼付する位置として外側だけでなく内側にも着眼して試みていき,有用な方策を見出すことが望まれる.