第57回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-3] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

Sat. Nov 11, 2023 2:50 PM - 4:00 PM 第3会場 (会議場B1)

[OK-3-5] 頭部外傷者における作業負荷時の易疲労・ストレスの特徴

江尻 知穂1, 羅 志偉2, 塚越 千尋1,3, 長尾 徹4, 種村 留美4 (1.なやクリニック, 2.神戸大学大学院システム情報学研究科システム科学専攻, 3.藍野大学保健医療学部, 4.神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域)

【はじめに】後天的な脳損傷による高次脳機能障害は職業復帰や継続的な就労を阻む要因であり,中でも頭部外傷(以下,TBI)者は比較的若い年齢での受傷が多く,就労支援を充実させることは必須である.しかし,TBI患者は重症度に関わらず作業負荷後に疲れやすい上,生じた疲労をその場で適切に把握することが難しく,周囲にも理解されにくい.本研究では,TBI患者における作業負荷時の易疲労・ストレスの特徴を明らかにすることによって,TBI患者自身と周囲の理解,適切な疲労管理につなげることを目的とした.
【方法】対象は,TBI患者13名(平均年齢45.0±12.4歳),TBI患者と年代を揃えた健常者14名(平均年齢45.1±12.4歳)であった.事前に文書と口頭により研究内容を説明し,文書による承諾を得た.なお,本研究は神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委会の承認を得て実施した(承認番号第986号).作業負荷として内田クレペリン精神検査(机上算術課題)を15分間行わせ,その前後と5分間の休憩後の3回,簡易倦怠感調査票(Brief Fatigue Inventory:BFI),脈波センサによる心拍変動(交感神経活動),課題達成率(Symbol Digit Modality Test:SDMT),脳波(簡易脳波計「脳波センサZA-X 研究用機器」使用)で疲労度とストレス値を測定した.脳波解析は,各計測においてアーチファクトのない1分間を目視にて選択し,θ・α・β波帯域の周波数成分のパワーの増減を高速フーリエ変換した.また,作業負荷前に質問紙にて身体・自律神経症状,不安・抑うつ,睡眠状況について記入を求めた.使用した質問紙はそれぞれNeurobehavioral Functioning Inventory(NFI)を修正した自作のもの,日本語版一般外来患者用不安抑うつテスト(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS),ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(The Pittsburgh Sleep Quality Index Japanese Version: PSQI)であった.統計学的検定は,健常者群とTBI群でこれらの回答に差があるかをマンホイットニーのU検定で,疲労度に関して各時点による差を健常者群とTBI群それぞれで,反復測定分散分析及びFriedmanの検定を用いて検討した.post-hoc検定にはBonferroni法もしくはTukey法を適用した.いずれもp<0.05を統計学的有意差ありと判定した.
【結果】身体・自律神経症状の質問紙における該当個数[中央値(最小値,最大値)]は健常者群1(0,6)個に比べてTBI群8(0,19)個でTBI群が有意に多かった(p<0.01).HADSの不安得点は健常群3(0,7)点, TBI群7(2,18)点であり,TBI群で有意に高かった(p=0.01).PSQIではTBI群で過半数が睡眠障害に該当し,健常者群と差があった(p<0.01).作業負荷による疲労度の変化は,BFIにてTBI群は疲労度が上昇する傾向にあった.交感神経活動は作業負荷後に健常者群で増加し(p<0.05),休憩後にTBI群で低下した(p<0.01).TBI群はいずれの時点でもSDMT達成率がカットオフ値を下回り,健常群より低かった(p=0.00).脳波計測において有意な差はほぼみられなかった.
【考察】TBI患者の基本的特性として,情報処理速度が低く,日常的に不安かつ睡眠に問題があり,外見からはわかりづらく日により変動する様々な症状を高い割合で持っていることが示され,認知的な疲れやすさに影響していることが推測された.支援者として,丁寧で分かりやすいコミュニケーション,作業負荷調整,短時間でも休憩をするなどの配慮の重要性が示唆され,就労の場でも共有される必要があると考えられる.脳波計測に関しては今後人数を増やし,疲労可視化の可能性をさらに検討する予定である.