第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-3] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

2023年11月11日(土) 14:50 〜 16:00 第3会場 (会議場B1)

[OK-3-6] 高齢者に対してMixed Realityを認知機能トレーニングとして用いた効果についての予備的研究

橋本 晋吾1, 長谷 公隆2, 田口 周2, 種村 留美1 (1.関西医科大学リハビリテーション学部, 2.関西医科大学リハビリテーション医学講座)

【はじめに】Mixed Reality(以下,MR)は仮想空間と現実空間を融合する映像技術であり,90分間の実施後も気分不良や身体的不調を来さないことが報告されている(Carole C, 2018).我々は,MRが高齢者のリハビリテーションに適した映像技術であると考え,身体運動と認知課題を組み合わせたアプリケーションを開発し,これまでに軽度認知障害の評価に関する研究を実施した.その結果,MRを用いた課題が軽度認知障害についてカットオフ値をもつ可能性が示唆されたため,今回,MRを介入に用いた効果について明らかにすることを目的に,地域在住高齢者に対してMRを認知機能トレーニングとして用いた予備的研究を実施したため報告する.
【対象】80代男性.独歩可能でADLは自立している.目立った周辺症状はみられないが,2年前から記憶障害をみとめている.もの忘れ外来では治療適応でないと診断されたため,認知機能トレーニングと運動機能維持を目的に週1回のデイケアを利用している.本研究の実施にあたり,対象者および同居家族に説明のうえ同意を得た.
【方法】介入期にはMRを1日20分間,週1回の頻度で6ヶ月間実施し,その後,後観察期にはパズルや計算などの机上課題をMRと同様の時間・頻度・期間で実施した.本研究の介入には,空間に展開されたコンピュータグラフィックスの数字を順番通りに手で触れて抹消するMR数字抹消課題を使用した.MR実施中の姿勢は座位から開始し,立位,歩行へと段階的に変更した.神経心理学的検査としてMoCA-J,TMT-Jを実施した.あわせて,心理症状についてApathy Evaluation Scale介護者評価日本語版(以下,AES-I-J),日常生活機能について老研式活動能力指標(以下,老研式)およびJST版活動能力指標(以下,JST-IC)を同居する娘から聴取して評価した.
【結果】介入期の変化として初期評価から6ヶ月後,後観察期の変化として6ヶ月後から12ヶ月後にかけての推移を以下に述べる(初期評価-6ヶ月後-12ヶ月後).MoCA-Jは17点-21点-19点,TMT-Jはpart A130秒-72秒-134秒,part B233秒-172秒-251秒となった.AES-I-Jは47点-47点-48点となった.老研式は5点-6点-5点,JST-ICは点9点-10点-9点となった.
【考察】 臨床的に意義のある最小変化量として,MoCAは1.22(CY Wu, 2019),TMT part Aは13.0,part Bは20.1(E Borland, 2022)と報告されているため,MRを用いた介入後に認知機能・注意機能が改善したと考えられる.一方,その後に机上課題を実施した後観察期には,一旦改善した認知機能・注意機能が介入前と同程度にまで低下した.認知症や軽度認知障害の治療として身体運動と認知機能トレーニングの同時実施が推奨されていることから(EGA Karssemeijer, 2017),本研究で用いた,歩きながら実施できるというMRの特長をいかした認知課題は,対象者の認知機能改善に寄与するものの,その効果は限定的であり,介入終了後にも持続するものではなかったと考えられる.また,AES-I-J・老研式・JST-ICについては,介入期・後観察期のいずれにも目立った変化を認めなかったため,MRを用いた介入によって認知機能・注意機能が改善した時期においても,心理症状や日常生活機能に対する影響は乏しかったと考える.今回は予備的研究として一症例に対する報告に留まったが,今後は対象者数を増やし,MRを認知機能トレーニングとして用いた効果に関する検証を進めたい.