[OL-1-2] 没入型Virtual Reality技術を使用した高次脳機能障害評価
【背景】近年,没入型Virtual Reality(以下,VR)技術が,脳卒中患者等のリハビリテーションに導入されるようになりつつあるが,リハビリテーションにおけるVRの有用性は十分には立証されていない(Cochrane Library, 2017).一方,脳卒中患者に対する半側空間無視などの高次脳機能評価の多くは,測定に時間を要すことや,非利き手や片手作業になる場合もあることから患者の負担となりやすい.今回,注意障害と左半側空間無視のある重度左片麻痺患者のリハビリテーションに没入型VRを使用して,評価機器としての有用性を認めたため報告する.
【症例】地域包括ケア病棟に入院中の70代男性,既往に右被殻出血,右放線冠・尾状核梗塞があり,重度左片麻痺を呈していた.自宅で介護保険サービスを利用して家族と生活していたが,COVID-19感染への不安からサービスを拒否した結果,活動性が低下し,歩行能力が低下したためX日リハビリテーション目的で入院した.入院時,MMSE21/30点,Trail Making Test-A;174秒,B;スケールアウト,BIT行動性無視検査97/146点(うち,星印抹消試験23/54,文字抹消試験23/40)で,指示理解は可能なものの,重度の注意障害と左半側空間無視を認めた.病前は携帯販売会社を営み,現在もパソコンでブログを書くことが趣味であるなど電子機器の知識が豊富であったため,VR使用を勧めたところ受け入れ良好であったため実施に至った.報告に関して書面にて本人の同意を得た.
【方法】X +39日,注意障害,半側空間無視の改善と意欲向上を目的にVRを実施した.ハードウェアはOculus Quest(Meta社),ソフトウェアはiADVISOR(ワイドソフトデザイン社)を用いた.iADVISORは機能訓練コンテンツとIADL訓練コンテンツで構成されており,ハンドトラッキング機能を使用するとハンドコントローラーなしでも操作が可能である.今回は機能訓練コンテンツ内のターゲット抹消訓練を実施した.これはバーチャル空間にランダムに現れるターゲットに触って消去していく課題で,空間内を縦横3列ずつに区切ったマスごとに消去位置と数の記録ができ,1試行あたり約1分で実施可能である.
結果:症例は以前にVRの使用経験はなかったが,機器を介助で装着すれば,練習なしで自己操作が可能であった.VR酔いなどの不快感を認めなかった.課題は全3回実施し,消去数は1回目15,2回目13,3回目2,消去位置は試行ごとに傾向は異なるが左側の列は消去できなかった.ターゲットにリーチするために体幹前傾姿勢を自ら持続的に行うなど意欲的に取り組んだが,生活上で左空間に注意を払うようになるなどの変化は認めなかった.
【考察】VR課題では一貫した左の見落としを認め,左半側空間無視の症状が明確に現れた.また,ターゲットの消去数や消去位置が一定しない様子についても,星印抹消・文字抹消検査と同様の傾向を認めた.これは,半側空間無視に加え転導性注意の低下の影響により,ランダムに現れるターゲットに対し柔軟に注意を向けることができなかったためと推察される.これらから,VR技術を利用することで,数分間という短時間で患者への負担を軽減しつつ高次脳機能評価へ応用できる可能性が考えられた.今回は入院期間中全3回の実施となり,日常生活上での顕著な訓練効果は認めなかったものの,自ら体幹を起こしてVRに取り組む様子が観察されており,継続使用により姿勢の改善なども期待される.今後は,既存の高次脳機能評価との詳細な関連性の検討が必要である.
【症例】地域包括ケア病棟に入院中の70代男性,既往に右被殻出血,右放線冠・尾状核梗塞があり,重度左片麻痺を呈していた.自宅で介護保険サービスを利用して家族と生活していたが,COVID-19感染への不安からサービスを拒否した結果,活動性が低下し,歩行能力が低下したためX日リハビリテーション目的で入院した.入院時,MMSE21/30点,Trail Making Test-A;174秒,B;スケールアウト,BIT行動性無視検査97/146点(うち,星印抹消試験23/54,文字抹消試験23/40)で,指示理解は可能なものの,重度の注意障害と左半側空間無視を認めた.病前は携帯販売会社を営み,現在もパソコンでブログを書くことが趣味であるなど電子機器の知識が豊富であったため,VR使用を勧めたところ受け入れ良好であったため実施に至った.報告に関して書面にて本人の同意を得た.
【方法】X +39日,注意障害,半側空間無視の改善と意欲向上を目的にVRを実施した.ハードウェアはOculus Quest(Meta社),ソフトウェアはiADVISOR(ワイドソフトデザイン社)を用いた.iADVISORは機能訓練コンテンツとIADL訓練コンテンツで構成されており,ハンドトラッキング機能を使用するとハンドコントローラーなしでも操作が可能である.今回は機能訓練コンテンツ内のターゲット抹消訓練を実施した.これはバーチャル空間にランダムに現れるターゲットに触って消去していく課題で,空間内を縦横3列ずつに区切ったマスごとに消去位置と数の記録ができ,1試行あたり約1分で実施可能である.
結果:症例は以前にVRの使用経験はなかったが,機器を介助で装着すれば,練習なしで自己操作が可能であった.VR酔いなどの不快感を認めなかった.課題は全3回実施し,消去数は1回目15,2回目13,3回目2,消去位置は試行ごとに傾向は異なるが左側の列は消去できなかった.ターゲットにリーチするために体幹前傾姿勢を自ら持続的に行うなど意欲的に取り組んだが,生活上で左空間に注意を払うようになるなどの変化は認めなかった.
【考察】VR課題では一貫した左の見落としを認め,左半側空間無視の症状が明確に現れた.また,ターゲットの消去数や消去位置が一定しない様子についても,星印抹消・文字抹消検査と同様の傾向を認めた.これは,半側空間無視に加え転導性注意の低下の影響により,ランダムに現れるターゲットに対し柔軟に注意を向けることができなかったためと推察される.これらから,VR技術を利用することで,数分間という短時間で患者への負担を軽減しつつ高次脳機能評価へ応用できる可能性が考えられた.今回は入院期間中全3回の実施となり,日常生活上での顕著な訓練効果は認めなかったものの,自ら体幹を起こしてVRに取り組む様子が観察されており,継続使用により姿勢の改善なども期待される.今後は,既存の高次脳機能評価との詳細な関連性の検討が必要である.