第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

援助機器/理論

[OL-1] 一般演題:援助機器 4/理論 1

2023年11月11日(土) 14:50 〜 16:00 第7会場 (会議場B3-4)

[OL-1-4] バーチャルリアリティー視聴による体性痛への影響の検証

穴井 崇士1, 牧野 優徳1, 沖 雄二2 (1.済生会大牟田病院, 2.帝京大学福岡医療技術学部作業療法学科)

【背景】
当院では骨折や脳卒中により疼痛が長期化し日常生活動作能力の低下や在院日数の延長に繋がっている症例が多数みられる.さらに,疼痛から活動性の低下や不動に繋がる場面が散見される.この痛みに対する過剰な回避行動は筋萎縮・関節拘縮・骨萎縮などの廃用症候群を来し,それにより痛みの悪循環が生じてしまう.痛みに対しては薬物療法などが有効であると報告されているが,副作用や医療コストの問題もある.先行研究においてvirtual rearity,(以下VR) 映像視聴による没入感覚及び不快情動ストレス,快情動ストレス負荷は体表面に起因する体性痛の軽減に有用である言われている.しかしVR映像を用いた介入研究は少ない.
今回疼痛のある対象者60名にVRを用いた運動療法を行い知見が得られたので報告する.
【目的】
V R映像を用いた運動療法での疼痛の変化.
【方法】
対象者は認知機能面の低下がなく,疼痛のある60名とした.運動器疾患:52名 脳血管疾患:8名
また,VR視聴群30名・コントロール群としてモニター視聴群30名にランダムで分けた.
疼痛に関してはVR・モニターの試聴前・試聴中にNumerical Rating Scale(以下NRS)で疼痛の変化を確認する.
方法としてエルゴメーター実施中にVR視聴前・後群とモニター視聴群の疼痛の3パターンの変化を比較した.
下肢の運動は三軸加速度センサー・頭部の動きはVRのヘッドトラッキング機能を用いて下肢と頭部の運動をVRからPCへ連動させた.モニター試聴群はVRを使用せず,モニター試聴にて実施した.
使用機材としてエルゴメーター,三軸加速度センサー(KAT loco),ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)としてOculus Quest2(Meta社),PC(GALLERIA XL7CR36H)を使用した.なお非検者の能力に合わせて,VR試聴時間を決めた.VRコンテンツは360度カメラにて撮影しPCと連動して確認出来るように作成した.
統計処理はMann-Whitney U検定とAnalysis Of Covarianceを用いた.有位水準はいずれも5%未満とした.
【結果】
VR視聴前後で疼痛低下に有位差を認めた(Mann-Whitney U検定)
VR視聴群とモニター視聴群の比較ではVR視聴群の疼痛低下に有位差を認めた(Analysis Of Covariance)
【考察】
今回の検証にてVR視聴はVR視聴なしと比較し有位に疼痛低下となることが検証された.また同環境下でのモニター視聴群(コントロール群)と比較しても疼痛低下が認められた.今後VRでの疼痛管理がおこなえれば,服薬管理と比較し,低侵襲かつ副作用の少ない疼痛コントロールが可能になるのではないかと考える.また,早期からのVR介入を行うことで活動量の増加・入院日数の短期化・QOLの向上に繋がると考える.
痛みは「感覚と感情の不快な経験であり,組織の障害が実際にある場合と関係しているか,あるいはそのような障害があるとして訴えられる」と定義されている1).今回の研究では短期的で一時的な疼痛評価だけであったが,今後は破局的思考などの心理状況の変化・長期的な筋量の変化・ADL変化などの客観的な指標を基に身体的反応と心理的反応を検証していきたいと考える.