[ON-1-2] 高齢者の近所付き合いと社会的孤立との関連
【はじめに】
急速な高齢化の進展により,高齢者の社会的孤立(家族やコミュニティとほとんど接触がない状態)が深刻な社会問題となっている.社会的孤立は,死亡率と正に関連(Holt−Lunstad et al.,2010)し,喫煙や高血圧と同じく健康を損なう要因である(Pantell et al, 2013).本邦では一昨年に孤独・孤立対策担当大臣が設置され社会的孤立解消に向けた対策の推進,また,地域や近隣との繋がりを重要視した地域共生社会への実現が目指されている.近所付き合いは地域において最も身近な関係であり,日常生活の支援には近所の方と会話ができる程度の付き合いが必要であることが明らかとなっている(本橋ら 2020).しかし,近所付き合いが高齢者の社会的孤立を防ぐかを報告した研究は見当たらない.
【目的】
近所付き合いが高齢者の社会的孤立を防ぐことができるかを検証する.
【方法】
本研究は,日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の2013年,2016年,2019年のデータを用いた縦断研究である.対象は3時点の自記式調査に回答した全国21市町65歳以上の高齢者34,708人(平均年齢72.0歳)である.目的変数は2019年の社会的孤立スコア(①配偶者と同居なし,②子どものサポートなし,③親戚のサポートなし,④友人のサポートなし,⑤地域との関わりなしに該当すると加点,点数が高いほど孤立)とし,説明変数は2016年の近所付き合いを3つに分類(なし・挨拶程度,日常的に立ち話をする程度,生活面で協力しあう)した.逆の因果の影響を抑制するため,2013年の社会的孤立スコア,近所付き合い,年齢,性,等価所得,教育歴などを調整変数とした(VanderWeele et al., 2016).統計学的分析では,重回帰分析(強制投入法,有意水準5%)を用いて非標準化係数B,95%信頼区間(confidence interval;CI),p値を算出した.また居住する都市規模が大きいほど立ち話や生活面で協力する人の割合が低い(内閣府,2021)ことから,都市度で層別した分析も同様に実施した.本研究は関係機関の倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には書面で説明し,同意を得た.
【結果】
2019年の社会的孤立スコアの平均値は3.2±0.8点で,2016年の近所付き合いは,なし・挨拶程度が8,608人(24.8%),立ち話が19,880人(57.3%),生活面で協力が5,793人(16.7%)だった.都市度で層別した社会的孤立スコアの平均値は大都市で3.3±0.8点,都市と郊外で3.2±0.8点,農村で3.2±0.8点であった.近所付き合いなし・挨拶程度を参照群とした社会的孤立スコアは,生活面協力で-0.20(95%CI:-0.23,-0.16,p<0.001),立ち話で-0.11(95%CI:-0.13,-0.08,p<0.001)であった.層別解析では,大都市,都市・郊外,農村いずれにおいても統計的に有意に主解析と同様の結果となった.
【考察】
近所の方と立ち話や生活面で協力しあっている高齢者は,近所付き合いがない,或いは挨拶程度の近所付き合いをしている高齢者と比べて,大都市,都市・郊外,農村いずれにおいても3年後に社会的孤立を防ぐことができる可能性が示された.また,作業療法士は,地域における高齢者の繋がりを近隣レベルで促進していくことで地域共生社会実現への一助となると考えられる.
急速な高齢化の進展により,高齢者の社会的孤立(家族やコミュニティとほとんど接触がない状態)が深刻な社会問題となっている.社会的孤立は,死亡率と正に関連(Holt−Lunstad et al.,2010)し,喫煙や高血圧と同じく健康を損なう要因である(Pantell et al, 2013).本邦では一昨年に孤独・孤立対策担当大臣が設置され社会的孤立解消に向けた対策の推進,また,地域や近隣との繋がりを重要視した地域共生社会への実現が目指されている.近所付き合いは地域において最も身近な関係であり,日常生活の支援には近所の方と会話ができる程度の付き合いが必要であることが明らかとなっている(本橋ら 2020).しかし,近所付き合いが高齢者の社会的孤立を防ぐかを報告した研究は見当たらない.
【目的】
近所付き合いが高齢者の社会的孤立を防ぐことができるかを検証する.
【方法】
本研究は,日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の2013年,2016年,2019年のデータを用いた縦断研究である.対象は3時点の自記式調査に回答した全国21市町65歳以上の高齢者34,708人(平均年齢72.0歳)である.目的変数は2019年の社会的孤立スコア(①配偶者と同居なし,②子どものサポートなし,③親戚のサポートなし,④友人のサポートなし,⑤地域との関わりなしに該当すると加点,点数が高いほど孤立)とし,説明変数は2016年の近所付き合いを3つに分類(なし・挨拶程度,日常的に立ち話をする程度,生活面で協力しあう)した.逆の因果の影響を抑制するため,2013年の社会的孤立スコア,近所付き合い,年齢,性,等価所得,教育歴などを調整変数とした(VanderWeele et al., 2016).統計学的分析では,重回帰分析(強制投入法,有意水準5%)を用いて非標準化係数B,95%信頼区間(confidence interval;CI),p値を算出した.また居住する都市規模が大きいほど立ち話や生活面で協力する人の割合が低い(内閣府,2021)ことから,都市度で層別した分析も同様に実施した.本研究は関係機関の倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には書面で説明し,同意を得た.
【結果】
2019年の社会的孤立スコアの平均値は3.2±0.8点で,2016年の近所付き合いは,なし・挨拶程度が8,608人(24.8%),立ち話が19,880人(57.3%),生活面で協力が5,793人(16.7%)だった.都市度で層別した社会的孤立スコアの平均値は大都市で3.3±0.8点,都市と郊外で3.2±0.8点,農村で3.2±0.8点であった.近所付き合いなし・挨拶程度を参照群とした社会的孤立スコアは,生活面協力で-0.20(95%CI:-0.23,-0.16,p<0.001),立ち話で-0.11(95%CI:-0.13,-0.08,p<0.001)であった.層別解析では,大都市,都市・郊外,農村いずれにおいても統計的に有意に主解析と同様の結果となった.
【考察】
近所の方と立ち話や生活面で協力しあっている高齢者は,近所付き合いがない,或いは挨拶程度の近所付き合いをしている高齢者と比べて,大都市,都市・郊外,農村いずれにおいても3年後に社会的孤立を防ぐことができる可能性が示された.また,作業療法士は,地域における高齢者の繋がりを近隣レベルで促進していくことで地域共生社会実現への一助となると考えられる.