第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-1] 一般演題:基礎研究 1

2023年11月10日(金) 14:30 〜 15:30 第7会場 (会議場B3-4)

[OP-1-3] 手関節肢位が虫様筋の筋活動に与える影響

後藤 直哉1,2, 車谷 洋2, 上田 章雄3, 伊達 翔太2, 砂川 融2 (1.広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門, 2.広島大学大学院医系科学研究科上肢機能解析制御科学, 3.林病院リハビリテーション部門)

【はじめに】
我々は日常生活で内在筋と外在筋を組み合わせることで物体を把持している.精密な動作に重要とされるのが内在筋であり,中でも虫様筋が屈筋と伸筋のバランスを取る役割を持つとされている.虫様筋は深指屈筋腱を起始とし隣接する伸展機構の側索に停止することを特徴とし,中手指節間関節(以下,MP関節)屈曲および近位指節間関節(以下,PIP関節),遠位指節間関節(以下,DIP関節)伸展に作用する.屈筋腱は手関節肢位により筋長と張力に影響を与えることは報告されているが,屈筋腱に起始部を有する虫様筋への手関節肢位による影響は明らかとなっていない.そこで,本研究では手関節肢位が変化することで虫様筋の筋活動が影響を受けることを予想し,等尺性収縮・等張性収縮課題中の手関節肢位の変化による虫様筋の筋活動を表面筋電図を用いて調査した.本研究の目的は,手関節肢位が虫様筋の筋活動にどのような影響を与えるかを明らかにすることである.
【方法】
右利き健常成人19名(男性10名,女性9名,25.0±3.4歳)を対象とした.運動課題は等尺性課題としてDIP/PIP関節伸展位でのMP関節屈曲運動を,等張性課題としてDIP/PIP関節屈曲伸展運動を実施した.どちらの課題も手関節肢位を屈曲60°,屈曲30°,中間位,伸展30°,伸展60°の5条件とした. 筋力の測定にはロードセルを使用し,筋活動には表面筋電図を用いた.被検筋は第一虫様筋,第一背側骨間筋,浅指屈筋,総指伸筋示指成分の計4筋とし,電極間距離10mmで筋腹に設置した.
本研究は広島大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:E-2517).また,対象者には実験実施前に十分な説明の後,書面にて同意を得た.
【統計学的処理】
SPSS ver.27 for Windows(IBM社製,Japan)を使用した.正規性はShapiro-Wilk検定を用い,筋力,筋活動の結果には手関節肢位5条件を要因とした反復測定一元配置分散分析を行った.下位検定にはBonferroni検定を用いた.有意水準は5%未満とした.
【結果】
(等尺性課題)筋力の実測値は屈曲60°から伸展60°までそれぞれ,4.66kg,5.04kg,5.00kg,5.02kg,4.59kgであり,発揮筋力に有意差はなく,手関節肢位による影響は認めなかった.筋活動では虫様筋の中間位と伸展30°の間,総指伸筋の伸展60°と他の4条件間,屈曲60°と伸展30°の間に有意差を認めた.その他の条件間に有意差は認めなかった.
(等張性課題)虫様筋はどの手関節肢位でも有意差を認めなかった.総指伸筋は伸展60°と他の4条件,伸展30°と他の4条件間での有意差を認めた.その他の条件間に有意差は認めなかった.
【考察】
 手関節肢位を変えた際の虫様筋の筋活動の違いを表面筋電図を用いて調査した.虫様筋では,等尺性課題時の手関節中間位と伸展30°に有意差を認めたものの,他の手関節肢位や等張性課題では差を認めなかった.手関節屈曲位では伸筋腱の張力増加に伴い虫様筋が停止部がある末梢方向に,手関節伸展位では屈筋腱の伸張により起始部がある中枢方向に虫様筋が移動したことにより,筋活動は維持された可能性がある.先行研究において,屈筋腱は手関節が伸展するにつれて筋活動が大きくなったと報告されている一方で,本研究では虫様筋は手関節肢位にほとんど影響を受けないことが明らかとなった.しかし,今回は被検者のほとんどが若年健常者であり,今後は脳血管疾患や外傷などにより手に障害を持つ患者や巧緻性低下が疑われる高齢者等を対象として研究を進める必要がある.以上の結果とこれまでの報告から,虫様筋は屈筋と伸筋のバランス調整機能を有する可能性が示唆された.