[OP-1-4] 箸開閉操作時の手指関節運動と関節間協調運動の特徴
【背景と目的】本邦では箸を利用して食事をすることが一般的である.上肢や手に障害のある対象者にとって箸を使った食事のニーズは高く,作業療法でも箸操作再獲得のための介入を行うことが多い.箸は母・示・中指で遠位箸を開閉操作する伝統的な持ち方であるPincers pinchingでの使用が多く,この持ち方では箸操作時に手内在筋の方が外在筋より筋活動が大きくなると報告されている.手内在筋は巧緻動作に関与するため,Pincers pinchingは複雑な手指関節運動の制御を必要とすると考えられる.しかし,この箸操作時の手指関節運動や関節間協調運動は未だ明らかでない.これを知ることで,箸操作の再獲得時に注目すべき手指関節運動が明らかになると考えられる.本研究は,箸の開閉操作に着目し,箸操作時の手指関節運動と関節間協調運動を明らかにすることを目的とした.
【方法】右利きでPincers pinchingで箸を操作する健常成人11名を対象に,箸の開閉操作課題を実施した.箸の開閉速度は快適速度,遅い速度(60拍/分),速い速度(180拍/分)の3種類とした.箸開閉操作中の遠位箸操作に関わる母指・示指・中指の手指関節運動および箸の動きの位置座標を12台の赤外線カメラ(Flex3,OptiTrack社製)を使った三次元動作解析装置(Motive,OptiTrack社製)で記録した.得られた位置座標から,母指の指節間(IP)および中手指節(MP)関節,示指と中指の遠位と近位指節間(DIPとPIP)およびMP関節の関節角度および箸先距離を算出した.箸先距離のデータから,箸が閉じた状態から開き再び閉じるまでを1サイクルとして,5サイクル分の関節角度波形を抽出し,サイクルごとに手指関節可動範囲と箸先距離を算出した.箸先距離に関連する手指関節運動を分析するため,回帰分析を行った.さらに,手指関節間協調運動を分析するため,得られた全対象者の全課題の手指関節角度波形に対して,主成分分析による運動シナジー解析を行い,固有値が1以上となる主成分の係数と得点を抽出した.本研究は倫理審査委員会の承認を得たのち,対象者の同意を得て実施した.
【結果】関節可動範囲は母指のIP/MP関節が4/2°,示指のDIP/PIP/MP関節が13/10/3°,中指のDIP/PIP/MP関節は7/10/4°で,示指と中指のDIPおよびPIP関節の可動範囲が大きかった.回帰分析の結果,示指PIP関節および中指PIPとMP関節可動範囲が箸先距離に関連していた.主成分分析の結果,2つの運動シナジーが抽出された.運動シナジー1は箸先を開くときにPIP関節伸展・MP関節屈曲となり,箸先を閉じるときにPIP関節屈曲・MP関節伸展となる示指と中指のPIP関節とMP関節の協調運動であった.運動シナジー2は母指と示指の関節間協調運動であった.
【まとめ】箸操作時の手指関節運動では,可動範囲が大きく,箸先の動きと関連のある示指と中指のPIP関節運動が箸の開閉操作時に主要な役割を果たしていると考えられる.また,手指関節運動の主要な関節間協調運動は示指と中指のPIP関節とMP関節の協調運動であり,手内在筋プラスとマイナス肢位を繰り返す運動と同様であった.これは虫様筋や骨間筋などの手内在筋の働きを反映していると考えられ,箸操作時に手内在筋が活動するとの報告に類似する.以上より,箸操作への介入時には,主要な働きを持つ示指と中指のPIP関節,およびPIP関節との協調運動を行うMP関節運動を中心に,手内在筋の作用を促進するような介入が必要であると考えられる.
【方法】右利きでPincers pinchingで箸を操作する健常成人11名を対象に,箸の開閉操作課題を実施した.箸の開閉速度は快適速度,遅い速度(60拍/分),速い速度(180拍/分)の3種類とした.箸開閉操作中の遠位箸操作に関わる母指・示指・中指の手指関節運動および箸の動きの位置座標を12台の赤外線カメラ(Flex3,OptiTrack社製)を使った三次元動作解析装置(Motive,OptiTrack社製)で記録した.得られた位置座標から,母指の指節間(IP)および中手指節(MP)関節,示指と中指の遠位と近位指節間(DIPとPIP)およびMP関節の関節角度および箸先距離を算出した.箸先距離のデータから,箸が閉じた状態から開き再び閉じるまでを1サイクルとして,5サイクル分の関節角度波形を抽出し,サイクルごとに手指関節可動範囲と箸先距離を算出した.箸先距離に関連する手指関節運動を分析するため,回帰分析を行った.さらに,手指関節間協調運動を分析するため,得られた全対象者の全課題の手指関節角度波形に対して,主成分分析による運動シナジー解析を行い,固有値が1以上となる主成分の係数と得点を抽出した.本研究は倫理審査委員会の承認を得たのち,対象者の同意を得て実施した.
【結果】関節可動範囲は母指のIP/MP関節が4/2°,示指のDIP/PIP/MP関節が13/10/3°,中指のDIP/PIP/MP関節は7/10/4°で,示指と中指のDIPおよびPIP関節の可動範囲が大きかった.回帰分析の結果,示指PIP関節および中指PIPとMP関節可動範囲が箸先距離に関連していた.主成分分析の結果,2つの運動シナジーが抽出された.運動シナジー1は箸先を開くときにPIP関節伸展・MP関節屈曲となり,箸先を閉じるときにPIP関節屈曲・MP関節伸展となる示指と中指のPIP関節とMP関節の協調運動であった.運動シナジー2は母指と示指の関節間協調運動であった.
【まとめ】箸操作時の手指関節運動では,可動範囲が大きく,箸先の動きと関連のある示指と中指のPIP関節運動が箸の開閉操作時に主要な役割を果たしていると考えられる.また,手指関節運動の主要な関節間協調運動は示指と中指のPIP関節とMP関節の協調運動であり,手内在筋プラスとマイナス肢位を繰り返す運動と同様であった.これは虫様筋や骨間筋などの手内在筋の働きを反映していると考えられ,箸操作時に手内在筋が活動するとの報告に類似する.以上より,箸操作への介入時には,主要な働きを持つ示指と中指のPIP関節,およびPIP関節との協調運動を行うMP関節運動を中心に,手内在筋の作用を促進するような介入が必要であると考えられる.