第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OQ-1] 一般演題:管理運営 1

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第5会場 (会議場B2)

[OQ-1-2] 勤労者役割面接と勤労者環境影響尺度の尺度特性の検討

島崎 翔子1, 中村 裕美2, 京極 真3 (1.介護老人保健施設エスポワール越谷リハビリテーション課, 2.公立大学法人 埼玉県立大学大学院 保険医療福祉研究科, 3.吉備国際大学保健医療福祉学部 作業療法学科)

【はじめに】米国や英国では,勤労者支援は作業療法の臨床実践場面の柱である.作業療法には,勤労者役割への認識を評定する尺度 (勤労者役割面接 Worker Role Interview: WRI) (Bravemanら2005)と,就労者役割の遂行に及ぼす環境要因を評定する尺度(勤労環境影響尺度 Work Environment Impact Scale:WEIS)(Moor-Cornerら1998)がある.これらの尺度を用いれば,被験者の仕事における価値観や満足感,ライフワークバランス,就労環境への認識を含めて,包括的に知ることができる(Taylor 2017).ただし,我が国ではこれらの日本語版が構築されたが,事例報告での使用に留まっている.なお,保健医療福祉に携わる専門職は,職務上のストレスが高く,容易に低減しないことが,大規模サンプルの長期の観察から示されている(Davidsonら2020).本邦では,特に老人保健施設に従事する専門職の離職率の高さが問題視されている(日本看護協会2021).平日の大半の時間とエネルギーを求められる勤労者役割を,満足感を持ち,円滑に遂行できないことは,作業機能障害を呈していると言える(寺岡&京極2015).
【目的】上記2尺度を老人保健施設に従事する専門職に用いて,それらの尺度特性の検討することで,今後の臨床運用の可能性を検討した.
【方法】本研究では,就労役割に影響を与え得る他の役割,例えば結婚や養育を経験すると想定される20-40歳代の人々に焦点を当て100名を選出した.個別にWRIを実施し,事前にWEISへの回答を求めた.WRIには,勤労者役割に対する「自身の能力査定」や「日課」等を含む16項目があり,面接形式をとる.WEISは自記式質問紙で,勤労環境における「監督者」や「安全性」等を含む17項目がある.いずれにおいても,回答は質問項目毎に「強く支持する」(4点)から「強く妨げる」(1点)に置換され,高数値ほど,個人の勤労者役割を支持すると判断される.取得したデータに欠損値が無いことを確認し,被験者の基礎情報を観察し,次に,WRIとWEISで得たデータに,ラッシュモデル解析を実装したjamovi ver.2.3 (2022)を用いた.項目毎に算出されるInfitとOutfitの値が,0.5から1.5の間であること,またMarginal Maximum likelihood Estimationで観察される尺度毎のモデルの適合が,goodレベル(0.8以上)またはexcellentレベル(0.9以上)であることが期待された(Linacre2017).本研究は第二筆者の所属機関で承認された研究プロトコルに従った.公益財団法人 三井住友海上福祉財団の助成を得た.
【結果】専門職としての経験年数の範囲は1-35年で,同一組織での勤続年数では半数が1年,常勤が82%で,年齢では30歳代(30%),20歳代(27%),40歳代(25%)の順で多数を占めた.職名では作業療法士(29%),介護福祉士(23%),理学療法士(16%)の順で多数を占めた.74%が女性で,60%に配偶者がいた.34%が養育者役割を担っていた.85%に同居者がおり,教育歴では短期大学または専門学校(50%),大学(36%)となった.ラッシュモデルは,WRIの「興味の追及」(Infit 1.630, Outfit 1.613)と「日課」(Infit1.548, Outfit1.572)の項目で期待値を外れたが,WEISでは全項目が期待値を示した.尺度としてのモデルの適合は,WRIが0.818で,WEISが0.913であった.
【考察】身体的傷病で休職中の人々を対象とした先行研究では,ドイツ語版WRIの「上司の認識」が(Kollerら2011),スウェーデン語版WEISの「監督者」(Ekbladhら2014)が,それぞれ期待値を外れた.本研究は,WRIに適さない属性が,老人保健施設に従事する専門職にいる可能性が示されたが,日本語版の信頼性や妥当性の検証は始まったばかりである.今後,他の方法でも解明する必要がある.