第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-3] 「使えない手」という認識が強い症例に対し, モニタリング方法を工夫したことで,「使える手」という認識を獲得した事例.

鈴木 祥夫, 佐藤 健太, 橋口 直矢 (医療法人渓仁会 札幌渓仁会リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】
脳卒中の上肢機能障害に対する治療にconstraint-induced movement therapy(以下,CI療法)がある.CI療法では,行動変容を促すため,生活上の目標となる行動を自己観察し表出する行為(以下,モニタリング)の促進が重要である.今回,高次脳機能障害を呈し,モニタリングが困難な症例を担当した.「使えない手」という認識が強く,従来のモニタリングの実施が困難なため,モニタリング方法を工夫した.その結果,「使える手」という認識を獲得したため報告する.尚,本発表にあたり,本人の同意を得ている.
【症例紹介】
60代男性.X年Y月Z日に左脳梗塞による左背外側前頭前野,放線冠病変を認める.Z+50日に当院転院.病前ADLは自立.趣味はドライブや釣り.数年前までトラック運転手をしていた.
【作業療法評価(Z+125~127日)】※入院時→左記評価日で記載.
<FIM(運動/認知)>53/19→80/28点<FMA>34→46点<ARAT>17→25点<STEF(右/左)>0/93→66/91点<MAL(AOU/QOM)>0.6/0.9→2.2/2.3<感覚>表在覚・位置覚軽度低下<TMT(A/B)>47/147→39/85秒<BAAD(Z+65に追加評価)>8→6点<言語機能>軽度運動性失語あり.<デマンド>普通の手に戻したい<モニタリング>実生活において,麻痺側上肢について困っていることを尋ねるも「わからない,特にない」と自身での問題抽出ができず, ADOC-H使用し目標共有を図るも「左手でできる」と共有困難.しかし,麻痺側上肢に対し,「全く使えない,入院時と変わらない」などの発言が多い.ADLや生活で麻痺側上肢を使用している場面の増加や評価結果を提示するも認識変わらず.日記で麻痺側のモニタリングを提案するも取り組めない.<訓練の様子>shaping課題やtask practiceの実施において,難易度が少し低いと「誰でもできる」と発言し,難易度が少し高いと「できない」と取り組みをやめてしまう. 自主練習は受動的であり,取り組み姿勢に変動がある.
【介入内容】
実生活でのモニタリングが困難であり,「使えない手」という認識が強かった.そのため, モニタリング対象を作業療法介入時における,麻痺側上肢の単関節運動で一定の速度や出力を調整する課題や非麻痺側上肢にて,麻痺側上肢を意識して操作する課題に変更し,麻痺側上肢に対する認識改善を図った.
【最終評価(Z+141~142日)】
<FIM>82/29点<FMA>50点<ARAT>47点<STEF>74/100点<MAL>2.0/2.1<感覚>変化なし<TMT(A/B)>33/93秒<BAAD>4点<モニタリング>「前よりよくなった,使えてる」と発言が聞かれ,「使える手」という認識を獲得した.<訓練の様子>主体的に訓練を進め,「何すればいい?」と上肢を気にかけるようになった.自主練習は自らリハビリ室に移動し,取り組むようになった.
【考察】
苧阪らは,「背外側前頭前野が自己モニター機能を有し,課題に即して情報を判断する高次な処理を担う」と報告している.本症例は情報を処理し,自己モニターすることが困難なため,「使えない手」という認識が強く,CI療法の手法であるモニタリングが困難であった可能性が考えられる.また,高次脳機能障害を呈する症例はCI療法の適応外であり,本症例も従来のCI療法での介入が難しい状態であった.よって,本症例では,モニタリング対象を活動面ではなく, 麻痺側上肢の単関節運動で速度や出力の調整を意識したり,自身の非麻痺側を補助的に用い,麻痺側上肢を意識して動かす課題とした.その結果,「使える手」という認識を獲得できた.本症例のように,高次脳機能障害によるモニタリング困難な場合,モニタリングの対象を活動面から麻痺側上肢の速度や出力の調整といった運動の質に変えることが,「使える手」という認識の向上に寄与する可能性が考えられる.