第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-7] 脳卒中後の痙縮に対して物理療法,装具療法を併用し,麻痺手の自己管理を目指した一事例

品田 有梨絵, 宝田 光, 外崎 達也 (医療法人 札幌麻生脳神経外科病院)

【序論】脳卒中後に生じる痙縮は約30%に認められ(Mayer,2003),痙縮の予防や改善には装具療法,電機刺激療法などの物理療法が有用である (Fujiwara,2004).本例は重度の運動麻痺,感覚障害,痙縮,半側空間無視を認め,麻痺手の自己管理が課題となっていた.このため,運動障害の改善を目的とした運動療法・物理療法に加えて,麻痺手の自己管理を促進する手段としてのPositioning arm rest,手関節装具を導入した結果,麻痺手の自己管理が可能となった.
【症例紹介】60代,男性,右利き.右被殻出血を発症し,第27病日に回復期病棟へ入棟した.なお,本例には本報告に関する説明を行い,同意を得た.
【作業療法評価(第27病日)】Fugl Meyer Assessment(FMA):2/66,手関節屈筋のModified Ashworth Scale(MAS):1+で遠位部に優位の痙性麻痺があり,肩関節亜脱臼を認めた.表在・深部感覚は重度鈍麻~脱失.Behavioural inattention test(BIT):136/146,Catherine Bergego Scale(CBS):8/30で左半側空間無視の所見を認めた.Functional Independence Measure(FIM):50/126点でセルフケアは全般的に介助が必要であった.安静時・動作時共に麻痺手の自己管理ができていなかった.
【介入方法】上肢機能訓練は電気刺激療法と単関節反復運動を併用した.電気刺激機器はエスパージ(伊藤超短波)を使用し,パルス幅250μs,周波数40Hz,刺激強度は運動閾値とした.電極位置は亜脱臼に対して棘上筋と三角筋後部線維,痙縮に対して上腕三頭筋と総指伸筋の神経筋接合部を挟むように貼付した.
 上肢の自己管理は車椅子上でPositioning arm restを使用し,車椅子に移乗したタイミングで麻痺手をのせるよう習慣づけを行った.移動場面やセルフケア実施時は手関節背側カックアップスプリントを使用し, 麻痺手が不良肢位とならないように予防した.装具の装着が習慣付いた段階で,自己判断で装着するよう促した.
【結果(第200病日)】FMA:14/66,MAS:1+.FIM:113/126と,非利き手での動作が修正自立レベルとなった.BIT:146/146,CBS3/30と机上検査上はUSNが改善していたが,生活場面では残存していた.上肢装具は自己装着が習慣化により麻痺手が不良肢位となる場面は減少し,装具未使用時も麻痺手の管理が可能であった.
【考察】本症例のFMAは12点の向上が得られ,臨床上意味のある最小変化量であるMinimal Clinical Important Difference(MCID)の9~10点を越える改善が得られたが,上肢の機能分類は重度麻痺のままであった (Arya,2011)(Woodbury,2013).このため,麻痺手の廃用予防や自己管理方法の獲得が必要であり,Positioning arm restの導入により麻痺手が視覚的に確認しやすくなり,良肢位保持の習慣に寄与した可能性があった(高内,2007) .加えて,手関節装具の併用により動作場面でも麻痺手を良肢位に保持できたことから麻痺手の自己管理が可能になったのではないかと推察した.ただし,本報告は一事例による実践報告であり,麻痺手の自己管理に対するPositioning arm restと手関節装具の因果関係は不明である.