[PA-12-15] 手指・前腕屈筋の痙縮に対し手関節の肢位に着目して外来作業療法を行った症例
【はじめに】生活期の手指・前腕屈筋の痙縮に対し,ボツリヌス療法と並行して,随意運動介助型電気刺激(IVES)を併用した月2回の外来OTを実施し,生活での麻痺手の使用頻度・動作の質が向上した症例を経験したため報告する.
【症例紹介】本発表に同意を得た20代女性,右利き,一般企業総合職,身障手帳3級.他院にてX年(高校生時)に脳動静脈奇形摘出術を施行後,左上肢前腕以遠に限局した運動麻痺が出現. X+7年,就職を機に当院にてボツリヌス療法と並行して外来OTを開始した.
【評価】左上肢FMA:運動 41/66点,感覚10/12点.ROM制限なし.MAS:橈側手根屈筋2,尺側手根屈筋1+,円回内筋1+,母指内転筋2,長母指屈筋1であり,リーチ動作は肩関節外転と肘関節屈伸で代償していた.把持動作時に長母指屈筋と母指内転筋の痙縮が増悪し,示指との対向が困難で,容器の把持は右手の補助が必要であった.MAL(AOU/QOM):1.14/1.14点で低頻度補助手レベルであった.
【経過と結果】OTは月2回,1日40分間実施した.<長期目標:名刺交換/ヘアアレンジ/将来の育児動作が出来る,短期目標:左手で毛束/タッパーの把持が出来る>を共有した.身障手帳3級で自己負担があることから,ボツリヌス療法は約半年毎に50単位施注し,施注筋はその都度ご本人・医師と相談して決定した.また,自主練習に加え,左手を実生活で使用するタイミングやポイントを指導した.A期:腱固定効果を利用した母指示指対向つまみの獲得を目指した時期(施注筋:長母指屈筋,母指内転筋)IVESで長母指伸筋を刺激して把持練習を行った,まずは腱固定効果を利用し手関節中間位で10cm台上にてピンチし,手関節掌屈位で机上リリースする課題から開始した.第1指間腔の開大を目的として物品は2cm角×5cmのコルクから始め,母指と示指の対向をより意識するときは1cm角の木片やビー玉を使用した.ヘアアイロン使用時に左手での毛束の把持が可能となり,MALはAOU/QOM:1.85/1.77点に向上した.B期(X+8年):手関節中間位での母指示指対向つまみ操作性の向上を目指した時期(施注筋:橈側手根屈筋,長母指屈筋,母指内転筋)腱固定効果を利用した把持ができた段階で,更なる手指伸展随意性の獲得を目的に,金属支柱付き装具で手関節中間~背屈位に固定し,IVESで長母指伸筋を刺激して段階的なピンチ練習を反復した.加えて,装具なしで手関節背屈位を維持できるよう傾斜台でのペグ操作練習を行った.手関節肢位の影響が軽減した結果,10cm角のタッパーを空間保持可能となり,MALはAOU/QOM:2.0/1.77点に向上した.C期(X+9年):空間でのつまみ操作性向上を目指した時期(施注筋:橈側/尺側手根屈筋,長母指屈筋,母指内転筋)肩関節内転位で把持することにより前腕/手関節を意識したリーチを促した.また装具なしで手関節軽度背屈位でのつまみ操作性が向上した段階で,名刺交換のため肘関節伸展位/前腕中間位/手関節背屈位での把持ができることを目標に,手根屈筋群の施注量を増やし,IVESで橈側手根伸筋を刺激して空間での把持練習を開始した.FMA上肢運動機能は48点に向上し,MASは橈側手根屈筋1+,尺側手根屈筋1,円回内筋1,母指内転筋0,長母指屈筋1となり,前腕中間位/手関節中間位での側腹つまみで名刺把持が可能となった.MALはAOU/QOM:2.46/2.08点に向上した.
【考察】今回の症例は,自己負担のため施注量が限られていたことに加え,仕事のため通院頻度も比較的少なかった.しかし,目的動作を阻害している筋を評価したうえで課題難易度を調整しながら電気刺激を併用し随意運動を反復したことで,一般的にボツリヌス毒素の効果が薄れる3か月を経過しても上肢機能が維持され,生活での麻痺手の使用頻度と質が向上したと考える.
【症例紹介】本発表に同意を得た20代女性,右利き,一般企業総合職,身障手帳3級.他院にてX年(高校生時)に脳動静脈奇形摘出術を施行後,左上肢前腕以遠に限局した運動麻痺が出現. X+7年,就職を機に当院にてボツリヌス療法と並行して外来OTを開始した.
【評価】左上肢FMA:運動 41/66点,感覚10/12点.ROM制限なし.MAS:橈側手根屈筋2,尺側手根屈筋1+,円回内筋1+,母指内転筋2,長母指屈筋1であり,リーチ動作は肩関節外転と肘関節屈伸で代償していた.把持動作時に長母指屈筋と母指内転筋の痙縮が増悪し,示指との対向が困難で,容器の把持は右手の補助が必要であった.MAL(AOU/QOM):1.14/1.14点で低頻度補助手レベルであった.
【経過と結果】OTは月2回,1日40分間実施した.<長期目標:名刺交換/ヘアアレンジ/将来の育児動作が出来る,短期目標:左手で毛束/タッパーの把持が出来る>を共有した.身障手帳3級で自己負担があることから,ボツリヌス療法は約半年毎に50単位施注し,施注筋はその都度ご本人・医師と相談して決定した.また,自主練習に加え,左手を実生活で使用するタイミングやポイントを指導した.A期:腱固定効果を利用した母指示指対向つまみの獲得を目指した時期(施注筋:長母指屈筋,母指内転筋)IVESで長母指伸筋を刺激して把持練習を行った,まずは腱固定効果を利用し手関節中間位で10cm台上にてピンチし,手関節掌屈位で机上リリースする課題から開始した.第1指間腔の開大を目的として物品は2cm角×5cmのコルクから始め,母指と示指の対向をより意識するときは1cm角の木片やビー玉を使用した.ヘアアイロン使用時に左手での毛束の把持が可能となり,MALはAOU/QOM:1.85/1.77点に向上した.B期(X+8年):手関節中間位での母指示指対向つまみ操作性の向上を目指した時期(施注筋:橈側手根屈筋,長母指屈筋,母指内転筋)腱固定効果を利用した把持ができた段階で,更なる手指伸展随意性の獲得を目的に,金属支柱付き装具で手関節中間~背屈位に固定し,IVESで長母指伸筋を刺激して段階的なピンチ練習を反復した.加えて,装具なしで手関節背屈位を維持できるよう傾斜台でのペグ操作練習を行った.手関節肢位の影響が軽減した結果,10cm角のタッパーを空間保持可能となり,MALはAOU/QOM:2.0/1.77点に向上した.C期(X+9年):空間でのつまみ操作性向上を目指した時期(施注筋:橈側/尺側手根屈筋,長母指屈筋,母指内転筋)肩関節内転位で把持することにより前腕/手関節を意識したリーチを促した.また装具なしで手関節軽度背屈位でのつまみ操作性が向上した段階で,名刺交換のため肘関節伸展位/前腕中間位/手関節背屈位での把持ができることを目標に,手根屈筋群の施注量を増やし,IVESで橈側手根伸筋を刺激して空間での把持練習を開始した.FMA上肢運動機能は48点に向上し,MASは橈側手根屈筋1+,尺側手根屈筋1,円回内筋1,母指内転筋0,長母指屈筋1となり,前腕中間位/手関節中間位での側腹つまみで名刺把持が可能となった.MALはAOU/QOM:2.46/2.08点に向上した.
【考察】今回の症例は,自己負担のため施注量が限られていたことに加え,仕事のため通院頻度も比較的少なかった.しかし,目的動作を阻害している筋を評価したうえで課題難易度を調整しながら電気刺激を併用し随意運動を反復したことで,一般的にボツリヌス毒素の効果が薄れる3か月を経過しても上肢機能が維持され,生活での麻痺手の使用頻度と質が向上したと考える.