第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-2-15] 運動失調を呈した小脳梗塞患者に対するADL向上へのアプローチ

田淵 成臣, 是澤 克彦, 森下 健, 花崎 太一 (大阪回生病院リハビリテーションセンター)

【はじめに】小脳梗塞の発症割合は脳梗塞の2~4%とされ,比較的稀な疾患である.今回,広範囲に小脳梗塞を発症した80代の男性を担当した.症例は四肢の運動麻痺は認めず,運動失調により車椅子移乗に介助を要した.小脳性運動失調に着目した治療を展開した結果,日常生活動作(以下,ADL)が改善したので報告する.
【症例紹介】80歳代男性,友人男性と二人暮らし.既往歴は未破裂脳動脈瘤コイル塞栓術後,高血圧症.外出先でめまい・嘔吐を生じ当院で小脳梗塞(左小脳半球・傍虫部)と診断,保存療法で入院加療となった.第1病日より起立練習開始,第3病日に梗塞巣に出血が生じた. modified Rankin Scale(以下,mRS)発症前0点,発症後4点.NIH Stroke Scale(以下,NIHSS)5.発症前は文化住宅2階に居住し,家事全般を行っていた.友人との生活再開を望まれ,リハビリテーションには積極的であった. 尚,今回の発表にあたり本人に趣旨を説明し口頭または文章で同意を得ている.
【評価】第5病日より作業療法開始.Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)上肢25下肢27その他20点.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)21点,運動失調はいずれも左3点.Berg Balance Scale(以下,BBS)6点.臨床的体幹機能検査(以下,FACT)3点.簡易上肢機能検査(以下,STEF)右77点,左34点.筋緊張は触察にて腹筋群,殿筋群に低緊張(左>右),両側の腰背部筋に高緊張を確認した.Functional Independence Measure(以下,FIM)は運動34点認知29点,ベッド・車椅子移乗は2点.移乗時,起立動作は動作性急で臀部離床と重心移動のタイミングが合わず失敗.何度か繰り返せば立ち上がれたが,方向転換のためのステップがなく,崩れるようにアームレストに手をつき勢いよく着座するため体幹を支える介助を要した.歩行は後方重心が強く,重度介助においても転倒リスクが高い状態だった.
【治療方針・内容】本症例は発症時mRS4点NIHSS5点であり回復期転院後に自宅復帰が可能と予測された.よって運動失調を軽減し,病棟内活動拡大のため車椅子移乗自立,車椅子自走の獲得を目指した.移乗困難の原因として,体幹四肢の運動失調による動作のタイミングや協調性低下,またそれらに伴う姿勢制御が困難であると考え治療を展開.運動失調に対して動作時の安定性を獲得すべく骨盤・下部体幹の運動を促通,支持基底面が狭い立位では難渋したため座位での閉運動連鎖を選択した.車椅子移乗練習においても支持のない移乗は運動失調の抑制が困難であったため,アームレストを用いた物的支持の中で成功体験を積み重ねた.
【結果】第25病日にはmRS3点.SIAS上肢25下肢30その他20点.SARA11.5点.運動失調は前腕回内外運動1点,他は2点に改善した.BBS19点,FACT14点.STEF右89点,左49点.腹筋群・殿筋群の低筋緊張,腰背部筋の高緊張に改善あり.FIMは運動67点,認知29点.ベッド・車椅子移乗は5点.ふらつきは残存するも見守りで移乗可能となった.歩行は前方に重心移動できるようになり,歩行器歩行が近位見守りで可能,また立位での整容動作,トイレ動作も修正自立で可能となり,第30病日に回復期病院へ転院となった.
【考察】小脳性運動失調に対して骨盤・下部体幹の筋活動を促通することは動作時の安定性を向上させると言われている.またSARAの点数が良好であればADLが高くなるといわれている.本症例に対して運動性失調改善の後に反復動作練習による課題獲得に取り組んだ.また動作練習時に成功体験が得られるようにフィードバックを行った.この一連の流れは急性期における小脳性運動失調患者のADL向上に対して一助になったのではないかと考える.