第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

Fri. Nov 10, 2023 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-2-17] BADによる重度上肢麻痺を呈した症例に対し,複合的な介入により上肢機能の改善に至った一例

村上 浩基, 小林 陽平, 古津 政明, 仲 桂吾 (埼玉石心会病院 リハビリテーション部)

【はじめに】レンズ核線条体動脈領域のBranch atheromatous disease (BAD)は,運動麻痺が大幅に改善する症例は少数とされている(千田ら,2013). 放線冠の梗塞は小さな梗塞巣でも運動予後は不良と報告がある(前田ら,2001).本症例は,発症1カ月が経過した放線冠領域のBADにより,右上肢に重度運動麻痺を呈した症例である.現在上肢麻痺の治療として,エビデンスが確立された課題指向型訓練があるが,適応基準として手指の随意伸展運動が必要である(Taub Eら,2013).そのため,重度麻痺例では適応外となることが少なくない.今回,ミラーセラピー+電気刺激を実施し,手指の随意伸展運動の改善を認め,機能的装具と併用した課題指向型訓練,Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation Therapy(HANDS療法)の実施が可能となった.その結果,麻痺側上肢の機能改善及び使用頻度・質の向上を認め,補助的な使用の獲得に至った.尚本報告は,症例に同意を得ている.当院倫理委員会より承認を得ている.
【症例紹介】50歳男性.左基底核から放線冠にBADを認めた.入院3病日目に神経症状は増悪.急性期で内科的治療,高圧酸素療法を行い,31病日目に回復期病棟へ転科.病前の日常生活動作は全て自立.職業は社長.主な業務は車で荷物の運搬,事務作業.
【作業療法評価】回復期入棟時の麻痺側上肢は,Brunnstrom Recovery Stage(BRS)上肢Ⅲ,手指Ⅰ,Fugl-Meyer Assessment(FMA)上肢14点,Modified Ashworth Scale(MAS)右上肢屈筋群1+,表在感覚・深部感覚正常.麻痺手の使用頻度はMotor Activity Log(MAL)のamount of use(AOU)1.27点,quality of movement(QOM)1.16点.認知・高次脳機能に問題はなく,身辺動作は独歩にて概ね自立.
【介入経過】復職・上肢機能の改善に対する希望を聴取した.初期は,物品操作の課題は困難であり,両手動作訓練に加え,ミラーセラピー+電気刺激を併用した介入を実施した.麻痺側上肢の各単関節運動を8週間,1日30分実施した.中期では,手指の随意的な集団屈曲・伸展を認め,電気刺激+機能的装具を用いた課題指向型訓練を実施した.また,ADOC(Aid for Decision-making in Occupation Choice) for handを用いて,日常生活で麻痺側上肢の使用を促した.後期では痙縮は減退し,手指伸筋群の筋出力の向上認め,随意運動型電気刺激装置(MURO solution)を用いたHANDS療法を実施した.頻度は3週間,1日8時間とした.また,行動戦略のTransfer packageを導入し,一部の事務作業,軽量の荷物の運搬が可能となった.
【結果】BRS上肢Ⅴ,手指Ⅳ,FMA上肢52点,MASは上肢屈筋群1,MALのAOU2点,QOM2.42点と麻痺側上肢及び日常生活場面での使用頻度・質の向上を認めた.
【考察】上肢機能の予後に関して,発症 72時間以内に手指の随意伸展が出現しないと予後は不良と報告している(Ni-jlandら,2010).本症例は発症1か月の時点で手指の随意運動は認めておらず,機能改善は乏しいと考えられていた.しかし,ミラーセラピーと電気刺激を併用したことで,手指の随意伸展運動が出現し,課題指向型訓練やHANDS療法の導入が可能となった.複合的な介入により,上肢FMA,MALでは回復期のMinimum Clinically Important Difference (MCID)を超える改善を示した.ミラーセラピーは,損傷側の一次運動野の賦活(Garry MIら,2005),手指機能の回復を促進すると報告している(Dohle C,2009).予後が良好でない症例でも,ミラーセラピー+電気刺激を実施することで,課題指向型訓練,HANDS療法の導入が可能となり,上肢機能の改善,及び日常生活での使用頻度・質が向上し,補助手としての獲得が見込める可能性がある.