第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-18] 抗MOG抗体関連疾患の症例に対し認知行動療法にて社会復帰を目指した事例

吹田 怜奈, 古津 政明 (埼玉石心会病院)

【はじめに】
抗MOG抗体関連疾患(myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease以下MOGAD)は免疫介在の炎症性脱髄性病変を生じ脳脊髄炎,脳幹脳炎など多彩な臨床型を呈する.ステロイド治療が効果的で機能予後は良好とされているが,免疫機能の低下により入院期間が長期に至ることが多くストレスが増えるケースも散見される.ストレスに対するアプローチとして認知行動療法(Cognitive behavioral therapy以下CBT)は有用であると言われている¹⁾.今回MOGAD由来の脳幹脳炎,脳脊髄炎により四肢麻痺,感覚障害を呈した症例を担当した.症例は入院に対するストレスを強く感じており,入院初期から早期の自宅退院願望強くセルフアウェアネスの低下を認めた.MOGADの回復過程に合わせてCBTを活用し自宅退院,社会復帰を目指した過程を報告する.
【症例紹介】
20歳代男性.意識障害と左上肢の痺れを呈し入院.検査にてMOGAD脳幹脳炎,脳脊髄炎の診断となり入院.生活歴はアパート2階で同居人と2人暮らし.仕事は接客業.Magnetic Resonance Imaging(MRI)にて橋~中脳,脳梁,左視床,延髄~C5,C7,Th1~10に高信号病変を認めた.尚本報告は症例に同意を得ている.当院倫理委員会より了承を得ている.
【作業療法評価】
認知機能は良好.Hopeは復職と散歩の再開.身体機能はブルンストロームステージ(以下Brs)上肢Ⅴ/Ⅱ手指Ⅴ/Ⅲ下肢Ⅱ/Ⅱレベルの左上下肢優位の四肢麻痺,両側上肢深部覚,複合覚中等度鈍麻,デルマトームC2~Th10レベルの軽度表在覚鈍麻と中等度異常感覚を認めた.排泄障害により尿道カテーテルを挿入.基本動作は重度介助,日常生活動作(以下ADL)は全介助レベル.
【経過】
治療はステロイドパルス療法を2クール実施し服薬へ移行.介入当初動作全体的に重度介助であったにも関わらず帰宅願望が強く,強い不安によりストレスを感じていた.作業療法(以下OT)では初期は上肢機能訓練や座位訓練を実施し更衣動作訓練,トイレ動作訓練へ移行した.CBTでは振り返りの方法としてコラムを使用する場合が多いが,本介入では書くことに抵抗を感じないように簡易な日記を提案.感情コントロール,現状の問題点の抽出,今後の課題を自己で考えるように徐々に項目を増やしセルフモニタリングを促した.機能回復と動作能力向上に合わせて,適宜感情もふまえ目標を共有し訓練を進め,第48病日に自宅退院となった.
【最終評価】
四肢麻痺はBrs上肢Ⅵ/Ⅵ手指Ⅵ/Ⅵ下肢Ⅵ/Ⅵレベル,筋力は右上下肢MMT5,左上下肢MMT4レベルまで改善.異常感覚はデルマトームC2~Th10領域に軽度,表在感覚はC7,C8領域に軽度,L4,L5領域に軽度残存した.複合感覚の中等度鈍麻が残存したが基本動作,日常生活動作ともに自立となった.高次脳機能は標準注意検査法にて年齢平均より下だったがADLには影響は認めなかった.排泄障害は残存したが自己導尿にて管理可能.退院直前の日記の内容は感情表出だけではなく,その時の問題点に焦点を当てた内容になっており,今後どう向きあうか自己検討が可能となった.復職に関しては自宅療養を介し体調にあった仕事を探す方向とした.
【考察】
急性期リハビリの介入の中で心理面に関する報告は少ない.飛騨ら⁴⁾によると病気や入院に伴い種々のストレス反応が多発することが指摘されている.CBTにより感情表出,問題点の抽出,課題の抽出など枠組みを決めた日記をツールとしたセルフモニタリングを行うことで,セルフアウェアネスの再獲得が可能となった.急性期でのストレスや抑うつなどに日記は活用できる可能性がある.