[PA-4-2] 複視出現距離は両眼性複視の評価方法として有用である
【はじめに】外眼筋麻痺後の経過において,麻痺の改善に伴い虹彩の内外縁が眼角に届くようになっても両眼視では複視が残存してしまうことが報告されている.しかし,眼科で行われるような複視の評価法はリハビリ場面では難しく実用的でない.両眼性の複視の特徴として,麻痺眼の黄斑で対象像を正しく捉えることができずに虚像が生じてしまうため遠い距離であるほど複視は出現しやすい傾向にある.そこで我々は,安静状態での正中視で複視が出現する距離を複視出現距離と定義し,これをリハビリ場面での複視の評価に用いた.今回,硬膜動静脈瘻カテーテル術後の外眼筋麻痺(外転神経障害)例に対してリハビリ介入を行い,複視出現距離の延長が日常生活動作の改善を示唆する良好な指標となり得たので報告する.なお,発表について本人からの同意を得ている.
【症例紹介】70歳代女性.病前よりデイサービスを週3回利用していた.夜中に頭痛,頭の中で脈打つように音が鳴る症状がありA病院を受診し,右海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻を指摘されカテーテルによる塞栓術をX日に施行した.術後より右眼外転神経麻痺が見られ当初は右眼虹彩が外眼角まで到達せず,両眼視で複視を認めていた.同病院では理学療法や作業療法(以下OT)を行い,OTでは迷路性眼球反射促通法など眼球運動に関するリハビリも施行された.X+32日に自宅退院したが,眼球運動のリハビリを希望され当クリニックを受診,X+62日よりOT開始した.
【複視出現距離の評価方法】椅子座位で実施.目標物は目線の高さに設定したうえで,鼻尖を基準として,頭位を正中に向け10秒安静後に正中視で複視が出現する距離をメジャーにて測定した.評価の結果は2回施行した際の最大値を採用した.
【初期評価:X+62日】右眼の虹彩外縁は外眼角にも到達しており外眼筋麻痺は軽度だったが,両眼視では複視を認めた.複視出現距離は45cmであった.病前は1日数時間プレイするなどTVゲームが趣味であったが発症後は疲労を感じやすくプレイしていなかった.生活場面ではデイサービスや自宅でも右眼に眼帯をつけて生活していた.
【介入方法】OTは週に1,2回介入し,1回あたりの介入時間は60分であった.プログラムとしては迷路性眼球反射促通法に加え,エコパテやボールなどを活用した右眼や両眼での眼球運動課題,超音波療法などの頸部筋リラクゼーション,眼球運動の自主トレ指導を行った.
【経過:X+93日】複視出現距離は235cmまで延長した.しかし,自宅でも眼帯を着用しており趣味のテレビゲームは再開できていなかった.OTではテーブル上に設置したタブレット端末にて本人が好きなゲームソフトのプレイ動画を両眼で視聴させたところ「このくらいなら1つに見えるな」と話すなど,自分の好きなゲームの内容を担当OTにも笑顔で説明するようになった.
【再評価:X+125日】複視出現距離は395cmまで延長し,自宅内やデイサービス利用時には眼帯を装着しなくても疲労感を訴えなくなった.TVゲームについても再開され両眼視にて数時間プレイすることも可能となった.
【考察】複視出現距離の測定はリハビリ場面でも実施できる簡便かつ定量的な評価法であり,距離を算出することで日常生活での問題も抽出しやすい利点がある.本例では複視出現距離が235cm以内では自宅内での日常生活に不自由さを認めたが395cmを超えた段階ではこれらは改善されており,複視出現距離はリハビリを行う際の具体的な目標値として設定できる可能性がある.すなわち複視出現距離の測定は,虹彩と眼角との距離では評価できない軽度の両眼性複視を評価する有用な指標になりうる.
【症例紹介】70歳代女性.病前よりデイサービスを週3回利用していた.夜中に頭痛,頭の中で脈打つように音が鳴る症状がありA病院を受診し,右海綿静脈洞部の硬膜動静脈瘻を指摘されカテーテルによる塞栓術をX日に施行した.術後より右眼外転神経麻痺が見られ当初は右眼虹彩が外眼角まで到達せず,両眼視で複視を認めていた.同病院では理学療法や作業療法(以下OT)を行い,OTでは迷路性眼球反射促通法など眼球運動に関するリハビリも施行された.X+32日に自宅退院したが,眼球運動のリハビリを希望され当クリニックを受診,X+62日よりOT開始した.
【複視出現距離の評価方法】椅子座位で実施.目標物は目線の高さに設定したうえで,鼻尖を基準として,頭位を正中に向け10秒安静後に正中視で複視が出現する距離をメジャーにて測定した.評価の結果は2回施行した際の最大値を採用した.
【初期評価:X+62日】右眼の虹彩外縁は外眼角にも到達しており外眼筋麻痺は軽度だったが,両眼視では複視を認めた.複視出現距離は45cmであった.病前は1日数時間プレイするなどTVゲームが趣味であったが発症後は疲労を感じやすくプレイしていなかった.生活場面ではデイサービスや自宅でも右眼に眼帯をつけて生活していた.
【介入方法】OTは週に1,2回介入し,1回あたりの介入時間は60分であった.プログラムとしては迷路性眼球反射促通法に加え,エコパテやボールなどを活用した右眼や両眼での眼球運動課題,超音波療法などの頸部筋リラクゼーション,眼球運動の自主トレ指導を行った.
【経過:X+93日】複視出現距離は235cmまで延長した.しかし,自宅でも眼帯を着用しており趣味のテレビゲームは再開できていなかった.OTではテーブル上に設置したタブレット端末にて本人が好きなゲームソフトのプレイ動画を両眼で視聴させたところ「このくらいなら1つに見えるな」と話すなど,自分の好きなゲームの内容を担当OTにも笑顔で説明するようになった.
【再評価:X+125日】複視出現距離は395cmまで延長し,自宅内やデイサービス利用時には眼帯を装着しなくても疲労感を訴えなくなった.TVゲームについても再開され両眼視にて数時間プレイすることも可能となった.
【考察】複視出現距離の測定はリハビリ場面でも実施できる簡便かつ定量的な評価法であり,距離を算出することで日常生活での問題も抽出しやすい利点がある.本例では複視出現距離が235cm以内では自宅内での日常生活に不自由さを認めたが395cmを超えた段階ではこれらは改善されており,複視出現距離はリハビリを行う際の具体的な目標値として設定できる可能性がある.すなわち複視出現距離の測定は,虹彩と眼角との距離では評価できない軽度の両眼性複視を評価する有用な指標になりうる.