第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-4] 脳卒中急性期におけるStroke Impact Scaleスコア変動に関する特徴-事例報告-

國府田 剛1, 小泉 浩平2, 武田 智徳1, 水村 翔1, 高橋 秀寿3 (1.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター, 2.埼玉県立大学 保健医療福祉学部作業療法学科, 3.埼玉医科大学国際医療センター運動・呼吸器リハビリテーション科)

【はじめに】脳卒中発症後の健康関連QOL調査では身体-心理感情-認知項目低下が示されている(Donkor et al,2014).脳卒中後の手指機能を含めた健康状態調査の標としてStroke Impact Scale(SIS)が利用されており(越智2017),回復期脳卒中患者を対象に報告されている(Mohammad et al,2014).一方で,急性期脳卒中患者では,精神機能の低下が活動,参加再開へ負の因子となる.心身機能の変動が著しい急性期脳卒中患者において,心身機能変動と健康指標であるSISスコアの連関を明確にすることは,その後の生活面を想定した計画立案の糸口になるかもしれない.
【目的】作業療法を実施した急性期脳卒中患者の上肢機能回復とSISスコアの変化量を後方視的に調査し,急性期におけるSISスコアの変動特徴を検証すること.本報告は事例から同意を得て報告している.
【症例紹介】70歳代男性.診断名:ラクナ梗塞.現病歴:右半身の脱力を認め,当院へ搬送,翌日から作業療法を開始.神経学的所見:意識清明.Fugl-Meyer Assessment(FMA):53/66点.Motor Activity Log(MAL)Amount of Use(AOU):0.2/5点.Quality of Movement(QOM):0.4/5点.神経心理学的所見:MMSE-J:25/30点.その他,高次脳機能低下はなし.SIS:筋力43/100%.記憶92/100%.感情63/100%.コミュニケーション78/100%.ADL・IADL55/100%.移動55/100%.手指機能30/100%.社会参加0/100%.回復10/100%.
【方法】右片麻痺を呈した事例に対して麻痺側上肢での目標を設定し,上肢機能練習,応用動作練習を実施した.並行して麻痺側上肢を用いた自主練習も行い,自主練習時間は作業療法介入時間と合わせて2時間以内とした.介入期間中の作業療法は1日60分,週5日,3週間継続した.主たる指標はSISとし,副次的指標に上肢機能評価をFMA.麻痺側上肢の使用頻度調査にMALを採用し,退院まで3週間のうち各週で取得したデータを解析対象とした.データはSISの下位項目と副次的指標の得点変化を比較した.
【結果】SIS(1週・2週・3週):筋力(43→81→87%),記憶(92→96→100%),感情(63→94→97%),コミュニケーション(78→92→100%),ADL・IADL(55→70→100%),移動(55→66→88%),手指機能(30→75→95%),社会参加(0→40→46%),回復(10→80→90%).FMA(1週・2週・3週):(53→59→64/66点).MAL(1週・2週・3週):AOU(0.2→3→3.9/5点).QOM(0.4→3→3.6/5点).主たる指標であるSISのうち,身体的および感情的スコアは変動が大きかった(身体的45→92%,感情63→97%).
【考察】急性期脳卒中患者を対象にSISを導入し,SISスコアと上肢機能の変化量や使用頻度を調査した結果,SISの身体的および感情スコアの変動,FMA,MALに変化を認めた.SISの身体的スコアを構成する手指機能は,回復期においてFMA得点と正相関,MALスコアと中等度相関する(Duncan et al,1999,Lin et al,2010).本事例は急性期のFMAのMCID(10点),MALのMCID(AOU:0.5点,QOM:1.0-1.2点)を超える変化を認めたため(Shelton et al,2001,Van der Lee 1999,Lang et al,2008),SISの身体的スコアに反映されたと考える.また,急性期脳卒中患者を対象としたQOL調査や健康状態指標は,抑うつや不安といった心理的指標がデータの確度を損なう(Reeves et al,2018).本事例に著しい心理状態の低下はなく,介入期間中の感情スコアも向上を認めた.交絡要因を統制することで,急性期においても身体的側面の健康状態指標の変化は測定し得ると推察される.今後は同様の変化が他の急性期脳卒中患者に認められるか調査し,健康状態調査の利用拡張を検証する.