第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-7] 自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと診断された症例への作業療法実践報告

川村 慶1, 吉澤 洸季2 (1.松戸市立総合医療センターリハビリテーション科, 2.松戸市立総合医療センター脳神経内科)

【緒言】
自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは2016年にFangらにより新たに提唱された自己免疫性髄膜脳炎,髄膜脳脊髄炎である.米国の疫学調査では有病率10万人に対して0.6人と報告している.発症年齢は全年齢層に認めるが中央値は40~50歳代で男女比はほぼ同等である.前駆症状として感冒症状を認めた後に髄膜脳炎,髄膜脳脊髄炎を呈する.頭痛,項部硬直,吐き気,小脳性運動失調,意識障害,振戦,精神症状などを認める.リハビリテーション(以下リハ)分野での報告はかなり稀であり,今回OT介入にて身体機能,ADL,心理面において良好な変化を認めたため報告する.尚,発表において本症例より同意を得ている.
【事例紹介】
40歳代男性,妻と子供3人と同居,会社員であった.現病歴は感冒症状から始まり,他院で解熱剤やPCR検査を3度実施された後に症状改善に乏しく,当院へ紹介受診となった.意識障害と膀胱直腸障害出現し,緊急入院となりIVMP2クール,IVIg療法5日間,PSL1mg/kg/日で後療法開始された.MRI画像では延髄・中脳表面に造影効果を認め,基底核・視床に血管周囲腔に沿う線状病変の散在を認めた.髄液検査で抗GFAP抗体陽性を認め診断に至った.
【初回評価】
意識はGCS:E4V5M6,意志疎通は問題なく可能であった.Barre/Mingazziniともに陰性であった.感覚は痺れを下肢に認めた.SARA16点で立位や移動項目で減点が目立ち,筋力はMMT4,FNF及びDDKテスト陽性,基本動作は起居移乗に軽介助を要した.ADLはFIMにて運動項目38点であり,排尿障害を認めていた.認知機能はMMSE-J29点,RCPM34点だった.
【経過と結果】
廃用症候群の改善と病棟ADL自立を目標に介入を開始した.リハ意欲は高く機能面やADL自立度は順調に改善していった.しかし排尿障害は残存し,Ba抜去後も尿閉にて自己導尿を継続する必要が説明された.本症例は自排尿障害から強く落ち込み,病室で泣いている姿も観察された.気分情動評価として大杉らによってPOMSと同等の結果を得られると報告されたPOMS-VASでの評価にて低値を示した.最終評価にてSARA1点,基本動作自立,FIMは運動項目91点と入浴を含めた病棟ADLは自立となった.退院直前に自排尿も認めるようになり,自己導尿回数は減少した事で気分情動評価におけるVASの値も改善傾向を示したが不安や活気低下は残っている状態であった.
【考察】
自己免疫性GFAPアストロサイトパチーにおける予後の検討に関して前方視的観察研究はないがFlanaganらやIorioらはmRSが1~1.5へ改善すると報告しており概ね良好な予後としている.しかし,Yagnらの予後不良群の報告では診断までの時間を要した事で免疫療法の遅延が要因で死亡した数事例を報告している.本症例は髄膜脳炎症状出現後に早期より免疫療法が開始された事で予後が好転したと推察する.そして出現した症状に対するリハ介入にて機能面やADLは速やかに改善していったと考える.気分情動障害においては排尿障害の影響からADLが自立した後もPOMS-VASは高値を示した.壮年期における排尿障害はメンズヘルスの低下を反映し,非常にセンシティブな事由であることが考えられた.症状改善に加え,比較的まとまった時間を接するOTが気分情動変化をとらえ,排尿に関連したリハの実施やアドバイスを行った事で気分情動の改善に繋がったと考えられ,OT介入が有効であったと考えられる.