[PA-5-3] ドライビングシミュレーターを介した脳損傷患者の運転技能評価手法の検討
【はじめに】
脳損傷後の自動車運転技能評価は,神経心理学検査や,ドライビングシミュレーター(DS),実車運転評価等の結果に基づいて行う事が多い.DSは,複雑な認知過程を必要とされる運転行動を模擬的に体験でき,患者の反応を観察することで運転技能を評価することも可能である.しかし,DSの結果は数値化することが難しく,評価者が観察し,主観的に評価することが多い.
そこで,本研究では,若年健常者と脳損傷患者を対象にして,DS操作の解析を行い,運転再開を行うにあたり適切な挙動の確認,指導方法の検討や観察時の留意点の確認を行うことを目的とした.
本研究は所属機関倫理委員会の承認を得て実施した.
【対象】
2017年12月から2021年10月までに脳損傷後に当院にて自動車運転評価を実施した117 名と,通勤で自動車を使用する20歳代の若年健常者である.脳損傷患者の中で運転再開となった症例(再開群)は68名,運転非再開となった症例(非再開群)は49名であった.
【方法】
Hondaセーフティナビ(本田技研工業)を使用し,健常者と脳損傷患者の運転時の挙動の違いを確認するために,「左側の路外施設からの車両の進入場面」のデータを抽出した.このシーンは,左側車両の予測やトラックの死角認識,自車の走行速度の調整が必要となる.左側車両が動く直前を起点,左側車両を回避し進んだ先にある交差点手前を終点とし,起点から終点までの走行データをログデータから抽出した.項目は水平方向の座標,垂直方向の座標,走行速度,ステアリング操舵角度,アクセル開度,ブレーキ開度の6項目.
健常者41名データの各項目の加算平均と標準偏差,各被験者の平均速度を出力した結果,進入車両が視界に入る場面の前で減速した群(早期反応群)21名と,後で減速した群(晩期反応群)20名の2つの群に分けることができた.早期反応群は,ブレーキ操作が早く頻回に行うことが示され,進入車両に対する反応が過敏.晩期反応群は進入車両に対し,ブレーキではなくアクセルを離すことで対処し,滑らかな減速を行う傾向が見られ,晩期反応群が理想的な運転行動に近いことが示唆された.そのため,晩期反応群を健常者群の比較対象とした.
【結果】
晩期反応群(健常者群)の平均データと運転再開可能となった再開群(68名)と運転非再開となった非再開群(49名)群の個々のデータに対し,類似度をみるために相互相関を求め,結果に対しMann-Whitney U検定を行なった.その結果,速度の項目で再開群の方が晩期反応群と類似しているという結果となり,再開群,非再開群の間で有意な差(p<0.05)を認めた.しかし,非再開群にも晩期反応群と速度の項目で相関係数が0.8以上と類似している群があった(23名).晩期反応群に対し,速度の相互相関が高い再開者と非再開者にどのような違いがあるのかを確認するために,再開群,非再開群でそれぞれ速度の相関係数が0.8以上の人を抽出し,比較を行なった.その結果,ブレーキ開度で再開群の方が晩期反応群と類似するという結果となった.
【考察】
今回の研究により,DS課題中には速度の反応を観察すること,そして,速度の反応が良好であっても,ブレーキ操作が的確に行えているか観察することが重要ということが明らかとなった.ブレーキ操作は健常者でも違いが現れることから重要な指標となることが示唆された.これは,ブレーキ操作が自動車運転操作の中でも緊急時の早急な反応が必要な操作であり,アクセルやハンドル操作など他の運転操作に比べ事故等の重大な問題を引き起こす要因となりやすいからであると考えられる.
脳損傷後の自動車運転技能評価は,神経心理学検査や,ドライビングシミュレーター(DS),実車運転評価等の結果に基づいて行う事が多い.DSは,複雑な認知過程を必要とされる運転行動を模擬的に体験でき,患者の反応を観察することで運転技能を評価することも可能である.しかし,DSの結果は数値化することが難しく,評価者が観察し,主観的に評価することが多い.
そこで,本研究では,若年健常者と脳損傷患者を対象にして,DS操作の解析を行い,運転再開を行うにあたり適切な挙動の確認,指導方法の検討や観察時の留意点の確認を行うことを目的とした.
本研究は所属機関倫理委員会の承認を得て実施した.
【対象】
2017年12月から2021年10月までに脳損傷後に当院にて自動車運転評価を実施した117 名と,通勤で自動車を使用する20歳代の若年健常者である.脳損傷患者の中で運転再開となった症例(再開群)は68名,運転非再開となった症例(非再開群)は49名であった.
【方法】
Hondaセーフティナビ(本田技研工業)を使用し,健常者と脳損傷患者の運転時の挙動の違いを確認するために,「左側の路外施設からの車両の進入場面」のデータを抽出した.このシーンは,左側車両の予測やトラックの死角認識,自車の走行速度の調整が必要となる.左側車両が動く直前を起点,左側車両を回避し進んだ先にある交差点手前を終点とし,起点から終点までの走行データをログデータから抽出した.項目は水平方向の座標,垂直方向の座標,走行速度,ステアリング操舵角度,アクセル開度,ブレーキ開度の6項目.
健常者41名データの各項目の加算平均と標準偏差,各被験者の平均速度を出力した結果,進入車両が視界に入る場面の前で減速した群(早期反応群)21名と,後で減速した群(晩期反応群)20名の2つの群に分けることができた.早期反応群は,ブレーキ操作が早く頻回に行うことが示され,進入車両に対する反応が過敏.晩期反応群は進入車両に対し,ブレーキではなくアクセルを離すことで対処し,滑らかな減速を行う傾向が見られ,晩期反応群が理想的な運転行動に近いことが示唆された.そのため,晩期反応群を健常者群の比較対象とした.
【結果】
晩期反応群(健常者群)の平均データと運転再開可能となった再開群(68名)と運転非再開となった非再開群(49名)群の個々のデータに対し,類似度をみるために相互相関を求め,結果に対しMann-Whitney U検定を行なった.その結果,速度の項目で再開群の方が晩期反応群と類似しているという結果となり,再開群,非再開群の間で有意な差(p<0.05)を認めた.しかし,非再開群にも晩期反応群と速度の項目で相関係数が0.8以上と類似している群があった(23名).晩期反応群に対し,速度の相互相関が高い再開者と非再開者にどのような違いがあるのかを確認するために,再開群,非再開群でそれぞれ速度の相関係数が0.8以上の人を抽出し,比較を行なった.その結果,ブレーキ開度で再開群の方が晩期反応群と類似するという結果となった.
【考察】
今回の研究により,DS課題中には速度の反応を観察すること,そして,速度の反応が良好であっても,ブレーキ操作が的確に行えているか観察することが重要ということが明らかとなった.ブレーキ操作は健常者でも違いが現れることから重要な指標となることが示唆された.これは,ブレーキ操作が自動車運転操作の中でも緊急時の早急な反応が必要な操作であり,アクセルやハンドル操作など他の運転操作に比べ事故等の重大な問題を引き起こす要因となりやすいからであると考えられる.