第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-5] 後天性脳損傷後の運転中断の準備状況は抑うつの程度と関連していた.

那須 識徳1,2, 石橋 裕3, 生田 純一1, 小林 隆司4 (1.農協共済中伊豆リハビリテーションセンターリハビリテーション部 作業療法科, 2.東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法科学域 博士後期課程, 3.東京都立大学大学院人間健康科学研究科 作業療法科学域, 4.岡山医療専門職大学健康科学部 作業療法学科)

【序論】後天性脳損傷(Acquired brain injury: ABI)後には運転を中断せざるを得ない場合があるが,地域移動支援や心理的サポートが十分でないことが指摘されている(Marnane 2022).高齢者対象の研究では,運転中断のための準備状態を考慮することが,必要な支援に繋げることに役立つと示唆されているが(Berg 2013),ABI後の運転中断者の準備状況を確認した報告は限られている.Assessment of readiness for mobility transition: ARMTは運転中断者の移動手段の変更に伴う個人の感情や態度を確認するための評価指標である(Meuser 2013).日本語版のARMT-Jは信頼性と妥当性が確認されており(Nasu 2022),予想される不安: AA,認識される負担感: PB,不利な状況: ASの3つの下位尺度で構成される.本研究の目的は,ABI後に運転の中断を予定している者を対象に,ARMT-Jと抑うつ傾向や生活の質との関連性を検討することである.本研究は東京都立大学の倫理審査委員会の承認(承認番号:20104)を得ている.【方法】対象は2020年12月から2022年3月まで医療機関でリハビリテーションを受けた後,運転を中断する予定のあるABI者107名であった.全例に研究内容を口頭及び書面にて提示し承諾を得た.確認項目は居住地域(1都会~5田舎),利用可能な公共交通手段(1沢山ある~5全くない),移動支援の体制(1沢山ある~5全くない),運転ができないと困るか(1困らない~5困る),運転への病気の影響(1支障がある~5支障はない)を5段階のリッカートスケールにて確認し,抑うつ傾向はGDS-S-J,生活の質はSF-36v2を確認した.さらに,年齢,運動麻痺の程度(Brunnstrom Stage)を確認した.統計解析は,先行研究に基づき運転中断の準備状況を3群(High Risk群:H群,Average Risk群:A群,Low Risk群:L群)に分類し,各評価項目の正規性を確認した上で正規性がみられた場合は一元配置分散分析を行い,正規性がみられなかった場合はKruskal-wallis検定を行った.有意差がみられた場合は,それぞれBonferroni法,Steel-Dwass法にて多重比較をした.【結果】群間特性はH群が33名(男性30名,年齢中央値56歳),A群が36名(男性29名,年齢中央値61.5歳),L群が38名(男性27名,年齢中央値65歳)であり,年齢と運動麻痺,SF-36v2では有意差は確認されなかった.GDS-S-Jは多重比較にて,H群とL群(p<0.01),A群とL群(p<0.05)に有意差を認め,H群からL群と段階的にGDS-S-J得点の低下が確認された.その他の項目は「移動支援の体制」と「運転ができないと困るか」の項目にて有意差が確認され,多重比較検定では,いずれの項目もH群と比べL群にて得点は低く,それぞれの項目で有意差(p<0.05)が確認された.【考察】本研究によりABI後の運転中断の準備状況が抑うつの程度に関連することが示された.さらに,「移動支援の体制」と「運転ができないと困るか」の項目ではH群に比べL群で低得点であった.ABI後に運転が困難になると,地域の移動を代替手段などに頼る必要性があるが,過疎地では公共交通が少なく,利便性が悪いという問題が生じる.そのため親族や近隣住民に依頼し,地域の移動を行うなど対応する必要があるが,移動支援者がいない場合には,これまで通りの生活を送ることが困難となる可能性がある.このような場合に,抑うつ傾向は高まる可能性がある.ABI後の運転中断者の支援では,移動ができないことで困難になる生活上の問題を具体的にした上で,利用可能な資源やサービスの活用,生活様式の変更などを考慮し,段階的に運転中断への準備態勢を構築していく必要があると考えた.