第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-6] 脳卒中患者の神経心理学的検査と実車運転技能の差異について

伊奈 杏都, 上杉 治, 昆 博之 (浜松市リハビリテーション病院)

【はじめに】 
高次脳機能障害者の運転評価方法として,神経心理学的検査,運転シミュレータ(以下DS),実車評価等 がある.当院では,実車評価を実施している症例は年間で50件以上ある.本報告では神経心理学的検査で基準を下回ったが,実車評価で運転再開可能となった4例をまとめ考察していく.尚本発表に際し,対象者からは書面にて同意を得ている.
【経過】
 Aは50歳代女性,脳出血(右前頭葉頭頂葉),中等度左片麻痺.発症1年2か月後より評価を開始.神経心理学的検査の結果では,左半側空間無視に伴う空間把握の苦手さ,分配性注意機能の低下が認められた.DS評価ではフィードバックを自分で解釈しながら修正し,左側へ注意ができる場面が増えたため実車評価を実施.実車評価では,分配性注意の低下は走行場面でも認められたが,運転が不可能なほどではなく,運転再開可能であると教官に評価された.
 Bは60歳代男性,脳梗塞(右MCA領域),上肢優位の中等度左片麻痺.発症8か月後より評価を実施.神経心理学的検査では,左半側空間無視,分配性注意低下,反応速度の遅延が認められたが,DS評価ではそのような場面は認めず,自分の能力に合わせた走行速度の維持ができていた.実車評価でも上記の症状は認めず,運転再開可能と教官に評価された.
 Cは60歳代男性,脳梗塞(多発性),著明な麻痺はないが右同名半盲あり.発症1年10か月後より評価を実施.神経心理学的検査では,全般的な注意機能低下,記憶低下が認められた.右側の刺激への反応はDS評価では困難であったが,生活場面では視野欠損の補完が可能であったため,実車評価を実施.運転時の右側への注意分配を含めた危険予測ができており,右側の視野欠損の代償が可能であったため教官に運転再開可能と評価された.
 Dは70歳代男性,脳梗塞(左MCA領域),著明な麻痺はないが軽度失語症あり.発症3か月後に評価を実施.神経心理学的検査では,全般的な注意機能の低下,処理速度の低下が認められ,多くの検査で基準を下回ったが,日常生活の自立度と神経心理学的検査の結果に乖離があった.DS評価では,反応速度も速く,対応も可能で,失語症と高齢者ドライバーの傾向を探る目的で,実車評価を実施.周囲への注意分配,処理速度の遅延もなく,教官に運転再開可能と評価された.
【結果】
A,B,C,Dの4例は神経心理学的検査で基準値を下回った検査があったものの,当院の実車評価後,主治医は運転再開可能と判断し診断書を作成した.4例とも運転再開に至った.
【考察】
 本報告より神経心理学的検査が検査基準を下回っても,運転再開できる可能性があることが示唆された.自動車運転という作業は,作業特性上,病前の運転技能との関連が強く個別性が高い.そのため神経心理学的検査の結果を重視して判断する事は危険である.DS評価や,実車評価,日常生活場面での症状の有無など総合的に判断し運転技能を推測していくことが重要であると考えた.