第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-6-16] 純粋運動性単麻痺に対して促通反復療法を中心とした複合的介入を行い上肢機能の改善を認めた脳皮質下出血の一例

大迫 洋介1, 豊栄 峻2,3, 浦底 まゆみ1, 大濵 由美1, 石丸 浩一1 (1.いちき串木野市医師会立脳神経外科センター, 2.鹿児島大学病院リハビリテーション部, 3.鹿児島大学大学院医歯学総合研究科リハビリテーション医学)

【はじめに】脳卒中の病態において,感覚障害を伴わない純粋単麻痺(Pure motor monoparesis:PMM)は稀であるが,これまで機能予後は良好とされていた.しかしOroszら(2018)の手PMMの25例を集積した報告では17ヵ月間のフォローアップにおいて,13例(52%)が軽度麻痺,2例(8%)が改善を示さなかったとされ,PMMの半数以上において運動麻痺が残存することが示された.また,これまでPMMに対する有効なリハビリテーションは確立されていない.今回,脳皮質下出血により手優位な右上肢のPMMを呈し,発症後1ヵ月を経過しても中等度の麻痺が残存した症例に対し,ロボット療法や促通反復療法,電気・振動刺激を組み合わせた複合的介入を実施し,上肢機能,物品操作機能,上肢使用頻度に改善を得たので報告する.
【症例紹介】患者は40歳代後半の右利き男性.右上肢の麻痺を自覚し当院を受診した.画像所見より左大脳半球中心前回の皮質下出血を認め入院となり,保存的加療が行われた.入院前の日常生活動作(ADL)は自立しており,ガス会社での運搬業務に従事していた.なお本報告については書面にて十分に説明を行い同意を得た.
【初期評価】回復期入棟時(第37病日)の評価において,FMA上肢項目(FMA)は40/66点と中等度麻痺を示し,肩関節亜脱臼や脳卒中後肩疼痛を認めた.認知機能はHDS-R30/30点と保たれ,明らかな高次脳機能障害は認めなかった.病棟内ADLは食事・整容・清拭以外は非麻痺側上肢を使用し自立レベルであった.患者主訴は上肢機能の改善であり,OT評価においても重要な問題点と考えられた.
【方法】上肢機能の改善に向け,第一に肩関節痛の消失が重要と考え,上肢近位部の麻痺に対し,持続的神経筋電気刺激下の促通反復療法(RFE under cNMES)を1日30分,毎日行った.また,自主練習として,上肢訓練ロボットCoCoroe AR²を用いて前上方リーチング訓練(上肢ロボット訓練)を200~250回実施した.両訓練においては肩関節痛を誘発しないよう十分注意した.加えて,訓練時以外においても,寝返り時の上肢位置や,歩行時のアームスリング着用の指導を行った.第50病日頃より,肩関節痛の訴えが消失し,運動耐久性の向上も認めたため上肢ロボット訓練の回数を600~700回程度に増加した.手指運動に関しては末梢神経電気刺激(PSS)にて正中・尺骨神経を刺激した状態でRFEでの各指屈伸と母指対立を50~100回程度行い,小ペグ操作などの巧緻動作訓練も開始した.また食事では自助箸を利用することで麻痺手の使用を促した.第70病日頃より,手内在筋への刺激を目的とした手掌への振動刺激を1分程行い,PSS使用下での中指~小指の屈伸を200回~400回に増加し,巧緻物品の操作練習・自室での書字練習,入浴時は普通型の洗体タオルの使用を促した.評価項目は,上肢運動機能をFMA,握力,物品操作能力をSTEFとARAT,日常生活での麻痺手使用にMALのAOUとQOMを用いた.
【結果】結果を回復期入棟から2週時→4週時→6週時の順で示す.FMAは53→63→64,握力は6kg→9.9kg→10.3kg ,STEFは71→88→88,ARATは49→53→55, MALのAOUは2.7→3.5→3.9,QOMは3→3.5→3.8と評価値の改善を認めた.
【考察】今回,中心前回に限局した皮質下出血による右上肢のPMMに対し,患者の上肢機能の回復段階に応じた複合的アプローチを実施し,全評価項目で改善を得た.特にFMAやMALの改善は臨床的意義のある最小変化量を上回っており,患者に対する今回の複合的アプローチは,有用な手段であったと考えられる.今後は,PMMを呈する症例数を増やして研究を行い,複合的アプローチの有用性を検討していきたい.