[PA-8-14] 薬剤師復職を目指した左前頭頭頂葉深部血管腫の一症例
【はじめに】身体障害者の一般企業への就業において,1年後の定着率は60.8%であり,就業や復職だけでなく就業継続も大きな課題となっている. 今回,脳出血で発症した血管腫の症例を担当した.退院後は薬剤師として復職を果たしたが,継続に至らなかった.復職後の支援に課題があると考えられたので,報告する. なお,報告に際し書面で同意を得ている.
【症例紹介】30歳代前半の右利きの女性.現病歴は,X-25日に両下肢脱力感を自覚し,X-15日に緊急入院した.左前頭葉から頭頂葉深部に脳出血で発症した血管腫と診断.X-9日に退院,X-2日に手術目的で再入院した.社会的背景は,夫と2歳の子どもと3人暮らし,仕事は薬剤師として調剤薬局にパート勤務していた.
【経過】周術期の経過:X-1日に術前評価を実施した.MMSE30,右手指にごく軽度麻痺を認めた.FIMは運動90点,認知35点であった.COPM(重要度/遂行度/満足度)では,(1)育児8/7/6,(2)家事8/6/5,(3)仕事(薬の一包化作業)5/4/3であり,仕事より育児が優先と話した.X日に開頭腫瘍摘出術を施行,迅速病理診断は悪性所見なしであった.X+1日にOT再開し,SIAS-M(右)1/4/0/0/0, SIAS-S(右)触覚1/1 位置覚1/1と右上下肢の麻痺と感覚障害を認めた.術後初期は軽度の観念失行を認めた.OTでは育児や復職を長期目標とし,上肢機能は薬の一包化作業ができる程度を目標に,徒手的な介入,上肢操作活動,自主練習の指導を実施した. X+14日の評価では, MMSE25,SIAS-M(右)4/4-5/2/2/2, SIAS-S(右)触覚2/1 位置覚2/1,握力右22.7kg 左21.1kg,パーデュペグボード検査 右8本/30秒 左12本/30秒であり,右上肢麻痺は大きく改善し,観念失行は消失した.右下肢麻痺は残存し,歩行練習は長下肢装具装着下で実施していた.FIMは運動59点,認知34点であった.X+31日に回復期病院へ転院した.
自宅退院後の経過:X+97日に回復期病院より自宅退院した.X+139日,主治医より復職に関する相談依頼があり,症例と面談を実施した.右下肢麻痺は残存し,短下肢装具装着して屋外歩行は自立であった.症例は復職を検討しており,アドバイスを希望された. 薬剤師業務は当院薬剤師から情報を得て, 回復期病院の担当OTと相談した上で,後日症例に指導を実施した.具体的には, (1)複雑な作業は時間に余裕を持つ (2)調剤中は,外乱が入らないよう職場に配慮を求める (3)調剤後はダブルチェックを求める (4)身体的,精神的に疲れ易く,作業量を配慮してもらう,を書いた書面を渡して説明を行い,職場の上司にも見せるよう伝えた.
【結果】X+252日に復職できた.X+279日に電話で状況を確認した.職場には業務内容を配慮してもらい,調剤は問題なく行え,ミスは許容範囲内であった.一方,狭い薬局内での移動が難しく,下肢疲労感が強かった.職場は座位での作業環境を準備したが,周りに気を遣い,立位で行うことが多かったと話した.X+370日に症例から退職すると報告があった.下肢疲労感が強いこと,患者対応業務を行っておらず,やりがいが減ったことを理由に挙げた.
【考察】症例は術後約8カ月で復職を果たした.術後より薬剤師業務を想定した上肢訓練を行えたこと,復職前に指導が行え,職場が協力的であったことが復職に繋がったと考える.長期継続に至らなかったことは,職場は業務内容や環境を配慮したが,そのことにより気を遣う,望む業務ができないことが原因と考えられた.就業継続させるために対応と対策を考慮する必要がある.
【結語】脳出血で発症した血管腫で,右不全片麻痺と感覚障害がある症例では,復職後に生じる問題は,環境や作業遂行能力だけでなく, やりがいや同僚との関係など,複雑である.就業継続支援の重要性が示唆された.
【症例紹介】30歳代前半の右利きの女性.現病歴は,X-25日に両下肢脱力感を自覚し,X-15日に緊急入院した.左前頭葉から頭頂葉深部に脳出血で発症した血管腫と診断.X-9日に退院,X-2日に手術目的で再入院した.社会的背景は,夫と2歳の子どもと3人暮らし,仕事は薬剤師として調剤薬局にパート勤務していた.
【経過】周術期の経過:X-1日に術前評価を実施した.MMSE30,右手指にごく軽度麻痺を認めた.FIMは運動90点,認知35点であった.COPM(重要度/遂行度/満足度)では,(1)育児8/7/6,(2)家事8/6/5,(3)仕事(薬の一包化作業)5/4/3であり,仕事より育児が優先と話した.X日に開頭腫瘍摘出術を施行,迅速病理診断は悪性所見なしであった.X+1日にOT再開し,SIAS-M(右)1/4/0/0/0, SIAS-S(右)触覚1/1 位置覚1/1と右上下肢の麻痺と感覚障害を認めた.術後初期は軽度の観念失行を認めた.OTでは育児や復職を長期目標とし,上肢機能は薬の一包化作業ができる程度を目標に,徒手的な介入,上肢操作活動,自主練習の指導を実施した. X+14日の評価では, MMSE25,SIAS-M(右)4/4-5/2/2/2, SIAS-S(右)触覚2/1 位置覚2/1,握力右22.7kg 左21.1kg,パーデュペグボード検査 右8本/30秒 左12本/30秒であり,右上肢麻痺は大きく改善し,観念失行は消失した.右下肢麻痺は残存し,歩行練習は長下肢装具装着下で実施していた.FIMは運動59点,認知34点であった.X+31日に回復期病院へ転院した.
自宅退院後の経過:X+97日に回復期病院より自宅退院した.X+139日,主治医より復職に関する相談依頼があり,症例と面談を実施した.右下肢麻痺は残存し,短下肢装具装着して屋外歩行は自立であった.症例は復職を検討しており,アドバイスを希望された. 薬剤師業務は当院薬剤師から情報を得て, 回復期病院の担当OTと相談した上で,後日症例に指導を実施した.具体的には, (1)複雑な作業は時間に余裕を持つ (2)調剤中は,外乱が入らないよう職場に配慮を求める (3)調剤後はダブルチェックを求める (4)身体的,精神的に疲れ易く,作業量を配慮してもらう,を書いた書面を渡して説明を行い,職場の上司にも見せるよう伝えた.
【結果】X+252日に復職できた.X+279日に電話で状況を確認した.職場には業務内容を配慮してもらい,調剤は問題なく行え,ミスは許容範囲内であった.一方,狭い薬局内での移動が難しく,下肢疲労感が強かった.職場は座位での作業環境を準備したが,周りに気を遣い,立位で行うことが多かったと話した.X+370日に症例から退職すると報告があった.下肢疲労感が強いこと,患者対応業務を行っておらず,やりがいが減ったことを理由に挙げた.
【考察】症例は術後約8カ月で復職を果たした.術後より薬剤師業務を想定した上肢訓練を行えたこと,復職前に指導が行え,職場が協力的であったことが復職に繋がったと考える.長期継続に至らなかったことは,職場は業務内容や環境を配慮したが,そのことにより気を遣う,望む業務ができないことが原因と考えられた.就業継続させるために対応と対策を考慮する必要がある.
【結語】脳出血で発症した血管腫で,右不全片麻痺と感覚障害がある症例では,復職後に生じる問題は,環境や作業遂行能力だけでなく, やりがいや同僚との関係など,複雑である.就業継続支援の重要性が示唆された.