第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-8-16] 長期脳梗塞後遺症者の上肢機能改善がQOLに及ぼす影響について

北林 雅大 (伊那中央病院)

【序論】脳梗塞を罹患されてから30年以上経過した事例の外来作業療法を経験した.上肢機能としては上田12gradeで2-3段階という変化量ではあったものの,生活の質(以下QOL)に変化を得ることができた.上肢機能の改善に伴う,日常生活動作(以下ADL),手段的日常生活動作(以下IADL),余暇活動の変化が,QOLの側面にどのように影響を及ぼしていたか,考察を加えて報告する.なお,対象者に全ての開示を行い,当院に提出可能な紙面にて同意を得ている.また開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【事例紹介】70代女性.筆頭演者が作業療法外来を担当開始した年をX年とし,X-30年以上前に左脳梗塞を発症,X年には再度左脳梗塞を発症.X年より以前からボツリヌス治療(下肢)を行っていた.余暇は友人との旅行やカラオケ.家庭内役割としては家事全般.
【作業療法評価(初回外来~3回目)※頻度は1回/2W】
◆BRS:上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅱ◆上田12grade:上肢3手指1下肢4◆上肢実用度:廃用手◆MMT(Lt):上肢4,下肢3+◆Sensory(Rt):表在・深部ともに軽度鈍麻◆DTR(Rt):(-)◆基本動作:全自立◆ADL:FIM120点/126点◆高次脳機能障害:なし◆IADL(食器洗い動作):右手の痙性を利用し,左手で食器を挟ませて痙性によって右手内に固定し,左手で洗っていた.◆HOPE:右手が使えるようになりたい.
【QOL評価尺度】WHOQOL-26を用い,評価は外来作業療法開始時,1年目,2年目と計3回追跡した.
【治療方針】神経生理学アプローチとボツリヌス治療の併用.
【経過】<姿勢緊張修正>初期の課題は,痙性を伴った屈曲姿勢パターンであった.第13回外来時には右殿部から立ち上がる床反力が知覚でき,第14回外来時には,上肢にて引き込まない立ち上がりが可能になった.右上肢の屈曲傾向減弱に伴い,安静座位時に右手が座面に近付いてくると,事例より,カラオケの際に右上肢が屈曲してきてしまう事が嫌だったと聞かれた.
<手指の随意性>痙性の減弱と共に手指のROMex,物品操作のActivityを開始した.加えてボツリヌス治療の施術量を上肢へも分散して頂いた.徐々に手指伸展が可能になった.反面,一時的に物品の把持能力は低下を認めた.
<実動作への般化>右上肢手指を,ADL,IADL,余暇への活用を開始した.第18回外来時には,右手が使えるようになってきた自覚を得た.
【結果と最終評価(24回目~25回目)】
◆BRS:上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅱ◆上田12grade:上肢5手指2下肢6◆上肢実用度:補助手◆IADL(食器洗い動作):左手で食器を把持し,右手で洗うことが可能となった.◆余暇:カラオケで,右手でマイクを持てるようになった.
◆WHOQOL-26(開始時/1年目/2年目):全体平均(3.00/2.50/4.00),身体的領域平均(3.00/3.43/4.00),心理的領域平均(2.83/3.33/4.00),社会的関係平均(5.00/4.00/5.00),環境領域平均(3.75/4.00/4.13)
【考察】介入当初の事例のHOPEは機能改善であり,上肢の機能改善を主目標としていた.しかしQOLを評価してみると,4領域で最も低値だったのは心理的領域であり,改善幅が最も大きかったのもまた心理的領域である,僅かな上肢機能の改善がIADLや余暇の質改善にまで繋がったことで,身体的領域のQOL改善に繋がったと考えるが,上肢機能の変化は身体的領域のみならず,脳梗塞後遺症者が抱える容姿外見等という否定的になりがちな側面にも影響を及ぼしており,心理社会的なQOLにおいても肯定的な変化を与えていたことが伺える.
【結語】QOLにおける身体的領域と心理的領域の関連性について検証を進めていきたい.