第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-2] 脳腫瘍術後患者における退院時の精神機能低下と退院後の勤労の関係

古橋 啓介1, 伊藤 駿1, 大野 智貴1, 井戸 芳和1, 佐賀里 昭2 (1.信州大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.信州大学医学部保健学科)

【序論・目的】
 近年,脳腫瘍患者数は増加の一途を辿っており,脳腫瘍という疾患の性質上若年の患者も多く,当該患者の復職へのリハビリテーションに作業療法士が参画する場面が増えている.脳腫瘍患者の勤労への影響因子としては,うつ症状や認知障害,短期死亡率の高さなどが挙げられている.さらに,種別を問わず術後のがん患者においてうつ症状や不安症状の有病率が高いとの報告も散見され,脳腫瘍術後患者のうつ症状や認知機能障害の出現が退院後の勤労へ影響することが予測される.しかしながら,脳腫瘍術後患者のうつ症状や認知機能障害と退院後の勤労の関連性を検討した報告は少ない.これらの関連性を明らかにすることは当該患者の退院後の勤労に対する作業療法介入立案の一助となると考えられる.そこで,本研究は脳腫瘍術後患者の退院時の精神機能と勤労についての関連を調査することを目的に実施した.
【方法】
 当院で脳腫瘍と診断され,腫瘍摘出術を施行された者のうち,入院前に勤労に従事していた患者23例を対象とした.対象者の退院時評価として,年齢,性別,Mini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J),Trail Making Test-Japanese(TMT-J),Functional Independence Measure(FIM),Brunnstrom Stage(BRS)およびHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を調査した.HADSは入院中におけるうつ症状(HADS.D)や不安症状(HADS.A)を判定する指標である.退院1ヶ月後の評価としてHADS,Frenchay Activities Index(FAI)を調査した.FAIは15項目からなり各項目0〜3点の4段階でIADLの頻度を判定する指標である.FAIの下位項目である勤労≧1を退院1ヶ月後に勤労に従事している患者の基準とした.統計解析は退院1ヶ月後に勤労に従事しているかどうかに基づき,勤労に従事した群,勤労に従事していない群の2群に分類し対応のないt検定,Mann-whitneyのU検定,X2検定による単変量解析を行った.解析は有意水準0.05未満を統計学的に有意とした.なお,本研究は倫理委員会の承認を得ている.
【結果】
 対象者23例(年齢50.5±9.9歳)の中で,退院後1ヶ月以内に勤労に従事していた患者は9例であり,勤労に従事できなかった患者は14例であった.対応のないt検定,Mann-whitneyのU検定,X2検定による解析の結果,年齢,性別,MMSE-J,TMT-J,FIM,BRS,退院時のHADS.A,退院後のHADS.Aの項目では有意な差はなく,退院時のHADS.D(P=0.04)と退院後1ヶ月時点でのHADS.D(P=0.02)の項目で有意な差を認めた.
【考察】
 脳腫瘍術後における勤労率はうつ症状を有した患者で低下していた.このことから,退院時までうつ症状が続く患者は,退院後1ヶ月後時点において勤労に従事できないリスクが高いと考えられる.先行研究(Serana Chun Yee So et al,2022)では,うつ症状を有したがん患者は,うつ症状を有さない患者と比較し,より否定的な感情を勤労に対し感じてしまうと報告された.このことより,脳腫瘍術後にうつ症状を有した状態で退院した場合,勤労に対し否定的な感情を抱きやすくなり,退院後の勤労率低下へ影響を及ぼす可能性がある.したがって,脳腫瘍術後早期より精神的苦痛や不安を和らげつつ適切な就労支援を実行していく必要がある.