第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-4] 急性期病院における脳卒中後の意欲低下とうつ症状の改善を目的とした作業療法実践

田中 里緒, 木内 愛梨沙, 関根 英哉 (沼田脳神経外科循環器科病院リハビリテーション部門)

【はじめに】
脳卒中患者において意欲低下やうつ症状は長期的な生活の質に負の影響を与えることが知られている.しかしながら,脳卒中急性期は,機能回復練習が中心となり,意欲低下やうつ症状への介入に十分に時間が割かれないことが多い.そのため,急性期病院から直接自宅退院する患者は,意欲低下やうつ症状の課題を残したまま退院することが危惧される.本研究の目的は急性期脳卒中患者に,具体的な作業を通して自身の現状と将来に向き合う機会を作ることで意欲低下やうつ症状が改善するか調査することである.
【方法】
前後比較研究を実施した.包含基準は,脳卒中治療のため入院し,作業療法が処方された患者とし,高次脳機能障害や意識障害により評価が実施困難な患者,病前自宅以外で生活していた患者,転帰先が自宅以外の患者は除外した.本研究の介入は,コルブの経験学習理論を応用した(Morris TH,2020).介入内容は,研究参加者の生活背景を聴取し,それに基づいた作業の実践,振り返り,フィードバック,退院後の具体的な計画を対象者と作業療法士が協働して実施するプログラムである.調査内容は,年齢,性別,診断名,家族構成,在院日数,Frenchay Activities Index(FAI,得点範囲:0-45点,高値ほど応用的・社会的活動性が高いことを示す),機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:FIM,得点範囲:総得点18-126点,運動13-91点,認知5-35点であり,高値ほど自立していることを示す),やる気スコア(得点範囲:0-42点であり,高値ほど意欲低下が強い傾向を示す),自己評価式抑うつ性尺度(Self-rating Depression Scale:SDS,評価範囲:総得点20-80点,高値ほどうつ傾向強いことを示す)である.統計解釈はWilcoxonの符号付き順位検定を使用し介入前後のFIM,やる気スコア,SDSを比較した.有意水準は5%未満とした.本研究は研究実施施設の倫理委員会の承認,対象者からの同意を得て実施した.
【結果】
15名が対象となった(年齢の中央値70.0歳,男性8名,女性7名,診断名(脳梗塞11名,脳出血2名,その他2名,独居3名,同居12名,在院日数の中央値49日).FAIの中央値は30点であり,入院前は家事,趣味,仕事などいずれかの役割も持っていた.FIMは91点から124点(p < 0.01)に向上し,やる気スコアは11点から8点となり,意欲低下の程度が改善していた(p = 0.021).一方,SDSは34点から36点であり,顕著な変化は見られなかった(p = 0.753).
【考察】
介入の前後でやる気スコアが改善したが,SDSには変化が見られなかった.具体的な作業活動を通した自身の能力の把握,作業療法士のフィードバック,退院後の生活に向けての具体的な計画立案は,退院後の生活に前向きになることを助けたと推察される.一方,うつ症状の改善は見られず,脳卒中後のうつ症状に対しては,長期的な支援を含む多角的な介入が必要であることが考えられる.具体的な作業を通して自身の現状と将来に向き合う機会は,脳卒中後の意欲の改善に効果的である可能性が示唆された.