第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-9] 退院後の生活をイメージできない脳卒中片麻痺事例に対するピアサポートを活用した退院支援

柳沼 智子1, 齋藤 佑樹2 (1.イムス板橋リハビリテーション病院, 2.仙台青葉学院短期大学)

【緒言】今回,脳出血により右片麻痺と高次脳機能障害を呈し,退院後の生活や復職までの経過のイメージが付きにくい事例を回復期リハビリテーション病棟にて担当した.本事例に対して,ピアサポートを行ったことで,退院後の生活や復職への具体的なイメージを持つことができ,独居生活に戻ることができたため報告する.尚,本報告について事例に対して説明を行い同意を得ている.
【事例紹介】事例はA氏,50歳代,女性.左被殻出血(右片麻痺).高次脳機能障害として中等度の失語症と注意障害がある.発症前は都内で独居生活を送っており,公共交通機関を利用し片道2時間かけて通勤し,オペレーターや観光案内といった仕事を複数掛け持ちしていた.友人と交流することや高齢の父親に会うことが日常の楽しみであった.
【作業療法評価・目標設定】面接評価では,家事の再開や仕事への復帰を希望していた.日常生活動作能力はFIMが75点(運動項目48点,認知項目27点)であった.FMAは13点,STEFは左が97点(右は非実施)であった.認知機能はMMSE-Jが30点.注意機能はTMT-Aが43秒,TMT-Bは99秒であった.評価結果を踏まえ,主目標を「独居生活に戻り,現職復帰することができる」とし,副目標を,「日中のトイレを見守りまたは1人で行うことができる(満足度1/5)」「右手で紙を押さえることができる(満足度1/5)」,「病棟内の移動を短下肢装具と杖を使用し歩いて移動することができる(満足度1/5)」と設定した.
【経過】副目標の達成に向け,作業療法ではトイレや更衣動作練習に加え,電気刺激(NM-F1やESPURGE,IVES)を用いた上肢機能訓練を開始した.約2週後,病棟内のADLは車椅子レベルで自立した.歩行は短下肢装具,T字杖で見守りレベルであり,自宅は20〜30cmの段差があるが,A氏は装具を使用することに消極的であり,「家に帰ればできます」「すぐに仕事に戻ります」等の語りが目立った.また,退院後に活用する社会資源として介護保険サービスの説明を実施したが,下肢装具同様に受け入れは不良であった.そこで,当院で定期的に実施しているピアサポートを目的としたナイトサロンへの参加を提案し,担当作業療法士(以下,OT)と一緒に参加した.ナイトサロンで,脳卒中当事者から退院後の生活の様子や工夫,復職までの経過等についての話を聴くと,A氏から当事者に対して,復職までどれくらいの時間を要したか等の質問が聞かれた.ナイトサロン参加後,A氏は屋外の移動形態について自分から提案したり,運動麻痺を呈した状態で復職が可能か会社の人事部に問い合わせたりと,以前よりも退院後の生活について具体的かつ現実的に考えるようになった.その後は,OTからの作業形態の変更に対する提案等の受け入れも良好になり,料理,掃除といった家事練習やドライヤー操作練習等を実施し,入院から約6ヶ月後,A氏は自宅へと退院した.退院時評価は,FIMが120点(運動項目87点,認知項目33点),FMAは61点,TMT-Aは28秒,TMT-Bは68秒に改善した.STEF,MMSE-Jは変化が見られなかった.
【結語】介入当初,退院後の生活をイメージすることが難しかったA氏に対して,脳卒中当事者同士のピアサポートを目的としたナイトサロンへの参加機会を提供した.その後の経過から,ナイトサロンというピアサポートは,心理的な支えや具体的な生活上の工夫等をもたらすだけでなく,今後の生活において何をすべきかをA氏自身が内省するきっかけを提供した可能性があると考える.