第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

心大血管疾患

[PB-2] ポスター:心大血管疾患 2

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PB-2-1] ICU長期入院中に離床拒否を呈した患者に対する作業療法の経験

吉田 真帆1, 長島 潤1,2, 宮田 剛成1, 青木 啓一郎2 (1.昭和大学江東豊洲病院リハビリテーション室, 2.昭和大学保健医療学部作業療法学科)

【緒言】ICU環境は,身体抑制,騒音などにより,せん妄,過度の不安や不穏状態などの精神症状を呈すると言われる.当症例は,弁膜症の術後で半年ほどICUに入院していた.長期入院により歩行訓練を含めた離床拒否があった.精神面のフォロー目的でOTを開始された.介入後は離床に意欲的になり,離床する機会が増えたことで人工呼吸器離脱に繋がった.この経験の報告とともに精神面を重点的に介入したICUでの作業療法について考察する.なお,本報告に際し対象者には十分な説明をし,同意を得た.
【症例紹介】80歳代女性,独居,要介護4.<診断名>僧帽弁三尖弁閉鎖不全症<術式>弁形成術,MAZE手術,PM移植術<現病歴>手術日はX年Y月Z日,理学療法開始はZ+1日.Y+1ヶ月:心タンポナーデになり,心膜開窓術を施行.同時期にリエゾンチームの介入を開始し,適応障害と診断された. Y+5ヶ月からOT開始.Y+10ヶ月:人工呼吸器離脱.Y+11ヶ月:一般病棟へ転棟.<既往歴>慢性腎臓病(週3回透析)
【OT初期評価(Y+5ヶ月)】<意識レベル>GCS:E4VTM6<コミュニケーション>理解良好,表出は発語困難<認知機能>評価困難<基本動作>監視〜軽介助・歩行:軽介助(歩行器)<ADL>BI:35点<印象>愛想笑いでスタッフに振舞っている.<本人の想い>「やったことないからできない」「みんなに歩け歩けと言われるけどできない」<他職種情報>表情が乏しく活気がないことや,離床意欲の低下によるリハビリの拒否があった.
【介入経過】初期評価より当症例にとってのストレスは「歩くことの重圧感」であり,歩行能力でしか承認されない環境で,何もできないと認識していると考えた.OTは「歩行」以外での活動に焦点を当てて介入した.介入初日〜1週間は会話をしながら信頼関係の構築とプロフィール表の作成を行った.介入1週間後から,カレンダー作成・塗り絵を導入,日記づけを毎日実施した.概日リズムは曖昧だったが,朝に主科回診があることは把握されていた.回診と同じ時間に介入することでOTの習慣化を図り,他者から介入場面を見てもらう機会を増やすことで歩行以外の話題での声かけや賞賛を得られる場面を設定した.またSF-12を介入1ヶ月後より毎月実施しQOLを評価した.介入1ヶ月ほどで課題に対し「やったことないけど,やってみたい」と積極的な発言がみられた.OT以外の時間でも日記やメモを取ったり,課題を行ったりしていると看護師から報告があった.
【結果(ICUから一般病棟へ転棟:Y+11ヶ月)】<意識レベル>GCS:E4V5M6<コミュニケーション>スピーチカニューレで発語可能<認知機能>MMSE21点 <基本動作>見守り〜自立・歩行:見守り(歩行器)<ADL>BI:65点<介入後の印象>活気があり笑顔が増えた.<他職種情報>よく笑うようになり,離床する目的ができたことで「座りたい」と発言があり,離床時間が増えた.筆圧も濃く意思疎通しやすくなった.
【考察】当症例は,ICUに長期入院し,運動耐用能の低下と自己効力感の低下を経て適応障害を呈したと考える.OTで成功体験・承認体験をしたことで,自己効力感が向上し,歩行以外で賞賛される活動に気づくことができた.さらに,より高度な課題を追求しようと意欲が生じ,離床の時間も増え,歩行訓練に向き合えたと考えられる.同じ離床訓練でも,余暇活動や社会参加につながる作業を用いて活動性向上を図ることができたと考える.ICUにおいても身体機能だけでなく患者のニーズや思いなどを引き出すことが重要である.ICU環境においてもOTが精神面に介入し,社会的交流につなげるべきである.