第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

心大血管疾患

[PB-2] ポスター:心大血管疾患 2

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PB-2-3] フレイルを有する高齢慢性心不全患者における1年後までの死亡に関連する因子の検討

大石 浩貴, 山下 遊平, 高柳 麻由美, 生須 義久, 内藤 滋人 (群馬県立心臓血管センター)

【序論】心臓リハビリテーションの現場において慢性心不全患者は高齢化に加え,基礎疾患,慢性腎臓病,慢性閉塞性肺疾患などの併発に伴いフレイル合併の増加傾向にある.フレイルは高齢慢性心不全患者の予後規定因子であることや,身体的,社会的,精神・心理的の3領域に大別されるフレイル領域の数は退院後1年までの死亡や心不全再入院のリスクを高めることが先行研究で示されている.しかし先行研究は歩行が可能な状態で退院した患者を対象としており,Friedらの基準で身体的フレイルを評価していることから,一般に心臓リハビリテーションの現場で用いられやすい客観的な心身機能評価やADL評価との検討は十分になされていない.
【目的】フレイルを有する高齢慢性心不全患者における1年後の死亡と関連のある因子を明らかにすることを目的とした.
【方法】本研究は後方視的研究である.2021年1月1日から1年間に慢性心不全の診断で入院となり,心臓リハビリテーションを実施した65歳以上の患者のうち,先行研究でFriedらの基準との相関が示されている基本チェックリスト8点以上に該当し,かつ退院から1年後の生死を電子カルテで追跡できた234名を分析対象とした.
1年後に生存した群を生存群,死亡した群を死亡群とした.2群間において,年齢,性別,入院日数,心臓リハビリテーション実施日数,心臓リハビリテーション実施単位数,作業療法実施単位数,基本チェックリストの点数,検査入院を除く再入院回数,退院時のShort Physical Performance Battery(以下SPPB),Mini-Mental State Examination(以下MMSE),Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS),Barthel Index(以下BI)および栄養指標である血清アルブミン値の正規性を確認しstudent’s t testとMann -Whitney U testを行った.次に有意差を認めた項目と年齢を説明変数,生存または死亡を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った.統計処理にはEZRを使用し,有意水準は5%未満とした.
本研究は群馬県立心臓血管センター倫理審査委員会の承認を受けて実施した.対象者には個人が第三者から特定されないこと,参加は自由意志であり不利益が生じないことを説明し同意を得た.
【結果】234名の対象のうち1年後までに32人(13.7%)が死亡していた.生存群{202名,84(77-88)歳,男性52%,基本チェックリスト12.8±3.6点}と死亡群{32名,86(79.8-89)歳,男性66%,基本チェックリスト14.2±4.0点}において,HADSの抑うつ,入院日数,心臓リハビリテーション実施日数,再入院回数,SPPB,MMSE,BIおよび血清アルブミン値について有意差を認めた.
ロジスティック回帰分析では再入院回数とBIが死亡リスクと関係しており,それぞれのオッズ比は,再入院回数が1.64(95%信頼区間:1.05-2.55,p=0.028),BIが0.95(95%信頼区間:0.90-1.00,p=0.039)であった.
【考察】フレイルを有する高齢慢性心不全患者において,再入院回数の増加とBIの点数悪化が1年後の死亡リスクに影響し,年齢や単独の心身機能によらないことが示唆された.先行研究では高齢慢性心不全患者は身体活動の低下によりフレイルが進行し,慢性心不全増悪・再入院をきたすことが多いと示されており,またADLの低下は活動性の低下や社会参加の機会の減少を招く.作業療法士は対象者の生活行為に働きかける専門職であり,ADLの維持向上に取り組むことで高齢慢性心不全患者の死亡リスクを低減させることに寄与する可能性がある.加えて再入院予防のために,医学的評価に基づくADLの負荷の調整や,活動・参加の機会増大および心理的援助を含めた包括的な生活指導にも携わることが肝要であると考えられる.