第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

呼吸器疾患

[PC-1] ポスター:呼吸器疾患 1

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PC-1-3] 重症COVID-19患者に対し,感染症病棟から自宅退院まで作業療法介入した事例

門脇 優 (川崎市立川崎病院医療技術部リハビリテーション科)

1.はじめに
COVID-19が日本で流行し始め約3年となる.今回,重症COVID-19肺炎で人工呼吸器装着下の患者に対し,早期から介入する機会を得た.その中で,PTとは異なる視点でアプローチをし,その経験で得られたことを報告する.報告に際し,症例には説明の上,書面での同意を得ている.
2.症例紹介
60代男性.身長172.0cm,体重93.0kg,BMI31.4.現病歴:発熱と経口摂取不良,倦怠感あり,クリニック受診.レントゲンで肺炎像あり,SpO2:91%で当院へ入院.肺炎像の増悪により人工呼吸器装着となった.5病日目より理学療法/作業療法の介入開始.既往歴:高血圧,脂質異常症,逆流性食道炎.入院前:ADLは自立で,介護タクシーのドライバーをしていた.
3.作業療法初期評価
呼吸器設定A/C(PC),FiO2:0.65,PEEP:8,TV:380,SpO2:98,RASS:-1.ADLは基本動作から全介助レベル.ROM:特に制限なし.MMT:上下肢2-3レベル.コミュニケーション:首振りの反応,理解は良好.
4.経過
初期:人工呼吸器装着化では,覚醒している際には,ROM訓練やグリップを用いた筋トレを実施.11病日目に酸素化改善のため,酸素マスクに変更.中期:安静時O2:2L,労作時O2:3Lで,立位訓練まで可能.労作時の酸素低下が著明であり,SpO2:95%→85%まで変動が見られた.訓練では,ベッド上での呼吸訓練と筋トレ,起居動作時の呼吸指導や食事姿勢の調整などを実施し,この時はPTとほぼ同様の内容であった.後期:安静時O2:2L,労作時O2:2-3Lで,歩行訓練まで可能.しかし,日中は臥床傾向で,リハビリとトイレ動作時で離床をする程度だった.訓練では,机上での粗大動作や座位で出来る自主トレ動作確認,ADL場面の呼吸指導を実施した.特に労作時のSpO2の数値と自覚症状の乖離が見られた.そのため,上衣着脱時や排便のいきむ動作など,SpO2が大きく変動する動作を中心にADL指導を行った.退院前:安静時O2:RA,労作時O2:2Lで酸素使用し病棟内を自由に歩行可能となる.連続動作やいきみ動作ではSpO2の変動,呼吸数増加見られるものの,自己対応にて対処可能となり,HOT導入の元で自宅退院となった.
5.作業療法評価経過
初期→中期→後期→退院時で記載 握力(右/左):11/10kg→19/26kg→24/27kg→29/30kg
BBS(右/左):不可→不可→54/56点→56/56点 FIM:33点→65点→94点→119点
BI:0点→55点→80点→90点 MMSE:評価できず→30点→30点→30点
6.考察
本症例では,COVID-19の人工呼吸器装着時より作業療法介入し,呼吸機能改善と筋力向上,ADL改善を図ることができた.理学療法士と共同で早期介入し,身体機能の改善を重点に置く時期とADLや生活場面への介入に重点を置く時期をシームレスに関わることが要因として挙げられる.人工呼吸器装着時から離床直後では,フィジカル面の問題が大きく,呼吸機能や筋力向上など身体面,基本動作への関わりが中心で理学療法と同様な関わりであった.しかし,離床を図ることができ,歩行が可能となった場面でADL場面への介入を早期から行うことで,短期間での自宅退院が可能になったと考えられる.
7.作業療法を行うことの意義
本症例では,重症COVID-19肺炎で人工呼吸器装着時より作業療法介入し,歩行-ADL自立で自宅退院に至った.早期のリハビリテーション介入については理学療法を中心に様々なエビデンスがあり,身体機能改善に寄与することは様々な報告が上がっているが,ADL改善の報告は少ない.本事例が,理学療法と協同で行う部分と作業療法の専門性を発揮する部分の差異を示す結果の一助になると幸いである.