[PC-4-4] 漠然とした不安を抱えるCOPD患者に対するMTDLPを活用した臨床実践
1.序論と目的
慢性閉塞性肺疾患(以下:COPD)は,呼吸困難増強,運動耐容能や身体活動量の低下を呈する.また,COPDは,精神機能面に影響を与え,抑うつ状態となるリスクを増加させる.しかし,不安・抑うつ状態を呈したCOPD患者に対する生活行為向上マネジメントシート(以下:MTDLP)を活用した報告や作業療法(以下:OT)実践報告は少ないことが現状である.今回,COPDを発症し,生活に漠然とした不安を抱えるA氏を担当した.その漠然とした不安に対して,MTDLPとHADSを活用し,具体的な内容抽出と客観化を図った.その結果,生活への不安が<掃除に関する不安>であると抽出され,合意目標を設定したOT介入により,不安・抑うつ状態が軽減し,自宅退院に至った.本報告の目的は,不安・抑うつ状態を呈したCOPD患者に対するMTDLPの有用性を報告することである. 尚,A氏から報告に対する同意は得ている.
2.一般情報
A氏,女性,70歳代.現病歴は歩行時に呼吸苦が出現し,当院を受診する.COPDを診断されて入院となる.家族情報は長男と夫と同居している.習慣的な活動は定期的な掃除である.
3.OT評価
認知機能はMMSE28点であった. 安静時Spo2は95%,呼吸筋の筋緊張亢進を認めた.ADLはBIで90点であったが,50m歩行やADL後のSpo2は90%に低下し,易疲労性を訴えた.初回面談では「家で生活するのは何か不安がある」と訴えた.MTDLPを活用した面談では,「掃除ができるか不安」と語られた.そのため,MTDLPの長期目標を『朝食後に自宅1階の居住スペースを呼吸困難感に合わせて休憩をしながら,掃除機がけをする』に設定し,合意を得た.実行度は1点,満足度は2点であった.また,不安を客観化する目的で,HADSを実施したところ,HADS-Aは2点,HADS-Dは7点であった.
4.OT方針
合意目標の達成には,疲労の自己管理が必要だと考えて,修正Borgスケールを紙面で提供した.この尺度を易疲労性のある50m歩行とADL動作,掃除動作の訓練終了時に確認し,自己管理の習慣化を図る方針とした.また,掃除機がけ作業は単調な反復動作のために動作が性急になること,姿勢が前屈位になり呼吸困難感が増加することを留意点として記載した紙面を提供した.
5.介入経過と結果
介入当初,50m歩行とADL動作,掃除訓練では,易疲労性が出現し,修正Borgスケールは5点であった.2週目時点では,50m歩行,ADL動作後もSpo2が95%に保たれ,呼吸状態の改善を認めた.しかし,この時期の掃除動作では「家に帰ってやってみないとわからない」と消極的な発言がみられた.4週目の掃除訓練では,自主的に休憩をとる場面が見られ,修正Borgスケールが2点となり,易疲労性が改善した.退院時の掃除訓練では「家に帰ってもやれそう,休憩が大事だ」と前向きな発言が聞かれた.合意目標では,実行度5点,満足度5点に向上した.また,HADS-Aは1点,HADS-Dは1点に改善し,抑うつ状態が軽減した状態で退院に至った.
6.考察
MTDLPにより,A氏が抱えていた漠然とした不安は,習慣的な掃除動作であることが明らかになった.さらに,HADSにより,抑うつ状態が強い傾向であることが判明した.掃除動作に関する自己管理の習慣化を目的とした介入の結果,経過の中で「やってみないとわからない」から「家に帰ってもやれそう」と好転的な反応を認め,HADSの点数が改善した.これは,疲労を自己管理しながら掃除動作を『出来る体験』として積み重ねた経験が,掃除動作に対する嫌悪的な認識からの脱却を促したことを示唆しており,これらのことが,合意目標の実行度と満足度の向上に寄与したと考える.以上のことから,COPD患者に対するMTDLPの活用は,抽出した不安に対するOT介入を可能とした.従って,不安や抑うつ状態であるCOPD患者に対するMTDLPの活用は有用的であると考える.
慢性閉塞性肺疾患(以下:COPD)は,呼吸困難増強,運動耐容能や身体活動量の低下を呈する.また,COPDは,精神機能面に影響を与え,抑うつ状態となるリスクを増加させる.しかし,不安・抑うつ状態を呈したCOPD患者に対する生活行為向上マネジメントシート(以下:MTDLP)を活用した報告や作業療法(以下:OT)実践報告は少ないことが現状である.今回,COPDを発症し,生活に漠然とした不安を抱えるA氏を担当した.その漠然とした不安に対して,MTDLPとHADSを活用し,具体的な内容抽出と客観化を図った.その結果,生活への不安が<掃除に関する不安>であると抽出され,合意目標を設定したOT介入により,不安・抑うつ状態が軽減し,自宅退院に至った.本報告の目的は,不安・抑うつ状態を呈したCOPD患者に対するMTDLPの有用性を報告することである. 尚,A氏から報告に対する同意は得ている.
2.一般情報
A氏,女性,70歳代.現病歴は歩行時に呼吸苦が出現し,当院を受診する.COPDを診断されて入院となる.家族情報は長男と夫と同居している.習慣的な活動は定期的な掃除である.
3.OT評価
認知機能はMMSE28点であった. 安静時Spo2は95%,呼吸筋の筋緊張亢進を認めた.ADLはBIで90点であったが,50m歩行やADL後のSpo2は90%に低下し,易疲労性を訴えた.初回面談では「家で生活するのは何か不安がある」と訴えた.MTDLPを活用した面談では,「掃除ができるか不安」と語られた.そのため,MTDLPの長期目標を『朝食後に自宅1階の居住スペースを呼吸困難感に合わせて休憩をしながら,掃除機がけをする』に設定し,合意を得た.実行度は1点,満足度は2点であった.また,不安を客観化する目的で,HADSを実施したところ,HADS-Aは2点,HADS-Dは7点であった.
4.OT方針
合意目標の達成には,疲労の自己管理が必要だと考えて,修正Borgスケールを紙面で提供した.この尺度を易疲労性のある50m歩行とADL動作,掃除動作の訓練終了時に確認し,自己管理の習慣化を図る方針とした.また,掃除機がけ作業は単調な反復動作のために動作が性急になること,姿勢が前屈位になり呼吸困難感が増加することを留意点として記載した紙面を提供した.
5.介入経過と結果
介入当初,50m歩行とADL動作,掃除訓練では,易疲労性が出現し,修正Borgスケールは5点であった.2週目時点では,50m歩行,ADL動作後もSpo2が95%に保たれ,呼吸状態の改善を認めた.しかし,この時期の掃除動作では「家に帰ってやってみないとわからない」と消極的な発言がみられた.4週目の掃除訓練では,自主的に休憩をとる場面が見られ,修正Borgスケールが2点となり,易疲労性が改善した.退院時の掃除訓練では「家に帰ってもやれそう,休憩が大事だ」と前向きな発言が聞かれた.合意目標では,実行度5点,満足度5点に向上した.また,HADS-Aは1点,HADS-Dは1点に改善し,抑うつ状態が軽減した状態で退院に至った.
6.考察
MTDLPにより,A氏が抱えていた漠然とした不安は,習慣的な掃除動作であることが明らかになった.さらに,HADSにより,抑うつ状態が強い傾向であることが判明した.掃除動作に関する自己管理の習慣化を目的とした介入の結果,経過の中で「やってみないとわからない」から「家に帰ってもやれそう」と好転的な反応を認め,HADSの点数が改善した.これは,疲労を自己管理しながら掃除動作を『出来る体験』として積み重ねた経験が,掃除動作に対する嫌悪的な認識からの脱却を促したことを示唆しており,これらのことが,合意目標の実行度と満足度の向上に寄与したと考える.以上のことから,COPD患者に対するMTDLPの活用は,抽出した不安に対するOT介入を可能とした.従って,不安や抑うつ状態であるCOPD患者に対するMTDLPの活用は有用的であると考える.