[PD-10-1] 慢性疼痛により不安・抑うつ傾向を呈した症例に対し,疼痛教育的介入を実施し改善が見られた一症例
[序論・目的]
疼痛治療に対し運動療法だけでなく患者教育を併用し参加を促し,適切な行動を選択可能にすると報告されている.リハビリを実施する中で慢性疼痛によりADLの改善に遷延をきたすケースが散見される.原因が不確定であり,入院期限までADLが改善せず退院する事が見受けられる.今回,胸椎圧迫骨折の診断で当院回復期に入院となり,慢性疼痛によりADLを阻害し不安・抑うつ傾向を呈し寝たきりとなった症例に対し,疼痛教育の観点から介入した.痛みへの情動的側面やFIMの点数に影響を与え,疼痛に対する介入の重要性を再認識したので報告する.報告にあたり症例から書面による同意署名を得た.
[症例紹介・方法]
80代女性.第12腰椎圧迫骨折の診断で当院回復期入院.前院入院時より右仙腸関節付近に強い疼痛があり,当院入院時も疼痛が残存しており3ヶ月以上続いていた.動作時痛が顕著でありNumerical Rating Scale(以下,NRS)8〜10の疼痛あり.X-Pでは第12胸椎に不安定性はあるがその他異常所見なし.主治医より疼痛に対する処置を実施したが改善には至らず.各種整形テストより神経学的所見は否定された.移動はベッド移動であり,FIMは59点であった.「動くのが怖い」「寝たきりになるかも」等悲観的な訴えが多く聞かれ介護に依存的になっていた.Central Sensitization Inventory short ver.(以下,CSI短縮版)を実施した所21/45点であった.CSI短縮版が20点以上である事や,明確な受傷機転がなく,整形テストの結果から中枢感作の可能性を想定し,疼痛教育と運動療法を併用する事とした.疼痛軽減を主の着眼点とせず,ADL・QOLの向上,自宅復帰後の役割再獲得を目標にした.痛みと身体活動への教育を行い理学療法も併用して実施した.身体活動,運動強度を痛みに合わせて設定し,活動の中で疼痛コントロールが出来るよう関わった.活動日記を用い,1日の中で運動量や痛みが強くなる時など症例が客観的に現状を捉えられるよう工夫した.また,なるべく自力で出来ることは実施してもらえる様看護師とも関わり方を統一した.効果判定としてCSI短縮版,Pain Catastrophizing Scale(以下,PCS),Hospital Anxiety and Depression Scale(以下,HADS)を用い評価を行なった(初期/最終).
[結果]
CSI短縮版21点/8点,PCS37点/7点,HADS不安16点/9点,抑うつ18点/7点となった.FIMは95点まで向上し,移動は歩行器歩行見守りレベルに改善.動作時NRSは5〜8程度残存しているが,「出来る事は自分でやってみる」「痛いけどあまり気にしないようにしている」等前向きな発言も聞かれた.病棟では看護師見守りの元歩行機会を自ら創出し,その他ADL動作も出来る事が増えた.
[考察]
今回の介入を通し慢性疼痛により難渋する症例に対する教育的介入は非常に有用であると実感した.上記PCS,HADSの結果から病態仮説に基づいた痛みの教育を実施する事で適切な信頼関係を築け,痛みの認知に対する変化がスムーズに進んだと推察する.また,症例は痛みに対し過剰な逃避傾向を示しており,動く事が痛みを増悪させるという固定観念からADLが大きく制限されていた.活動日記を用い1日の運動量をフィードバックした事で自己コントロール感や自己効力感を強化し「痛みがある中でも生活が送れる」という状態をもたらした事が破局的思考や不安・抑うつ傾向からの脱出に繋がったと考える.自宅復帰を目指す中で痛みにとらわれることなく病棟生活を送れるようにマネジメントしていくことの重要性を再認識することが出来た.今後は慢性疼痛に対するアプローチ方法を病院全体に普及できるよう尽力したい.
疼痛治療に対し運動療法だけでなく患者教育を併用し参加を促し,適切な行動を選択可能にすると報告されている.リハビリを実施する中で慢性疼痛によりADLの改善に遷延をきたすケースが散見される.原因が不確定であり,入院期限までADLが改善せず退院する事が見受けられる.今回,胸椎圧迫骨折の診断で当院回復期に入院となり,慢性疼痛によりADLを阻害し不安・抑うつ傾向を呈し寝たきりとなった症例に対し,疼痛教育の観点から介入した.痛みへの情動的側面やFIMの点数に影響を与え,疼痛に対する介入の重要性を再認識したので報告する.報告にあたり症例から書面による同意署名を得た.
[症例紹介・方法]
80代女性.第12腰椎圧迫骨折の診断で当院回復期入院.前院入院時より右仙腸関節付近に強い疼痛があり,当院入院時も疼痛が残存しており3ヶ月以上続いていた.動作時痛が顕著でありNumerical Rating Scale(以下,NRS)8〜10の疼痛あり.X-Pでは第12胸椎に不安定性はあるがその他異常所見なし.主治医より疼痛に対する処置を実施したが改善には至らず.各種整形テストより神経学的所見は否定された.移動はベッド移動であり,FIMは59点であった.「動くのが怖い」「寝たきりになるかも」等悲観的な訴えが多く聞かれ介護に依存的になっていた.Central Sensitization Inventory short ver.(以下,CSI短縮版)を実施した所21/45点であった.CSI短縮版が20点以上である事や,明確な受傷機転がなく,整形テストの結果から中枢感作の可能性を想定し,疼痛教育と運動療法を併用する事とした.疼痛軽減を主の着眼点とせず,ADL・QOLの向上,自宅復帰後の役割再獲得を目標にした.痛みと身体活動への教育を行い理学療法も併用して実施した.身体活動,運動強度を痛みに合わせて設定し,活動の中で疼痛コントロールが出来るよう関わった.活動日記を用い,1日の中で運動量や痛みが強くなる時など症例が客観的に現状を捉えられるよう工夫した.また,なるべく自力で出来ることは実施してもらえる様看護師とも関わり方を統一した.効果判定としてCSI短縮版,Pain Catastrophizing Scale(以下,PCS),Hospital Anxiety and Depression Scale(以下,HADS)を用い評価を行なった(初期/最終).
[結果]
CSI短縮版21点/8点,PCS37点/7点,HADS不安16点/9点,抑うつ18点/7点となった.FIMは95点まで向上し,移動は歩行器歩行見守りレベルに改善.動作時NRSは5〜8程度残存しているが,「出来る事は自分でやってみる」「痛いけどあまり気にしないようにしている」等前向きな発言も聞かれた.病棟では看護師見守りの元歩行機会を自ら創出し,その他ADL動作も出来る事が増えた.
[考察]
今回の介入を通し慢性疼痛により難渋する症例に対する教育的介入は非常に有用であると実感した.上記PCS,HADSの結果から病態仮説に基づいた痛みの教育を実施する事で適切な信頼関係を築け,痛みの認知に対する変化がスムーズに進んだと推察する.また,症例は痛みに対し過剰な逃避傾向を示しており,動く事が痛みを増悪させるという固定観念からADLが大きく制限されていた.活動日記を用い1日の運動量をフィードバックした事で自己コントロール感や自己効力感を強化し「痛みがある中でも生活が送れる」という状態をもたらした事が破局的思考や不安・抑うつ傾向からの脱出に繋がったと考える.自宅復帰を目指す中で痛みにとらわれることなく病棟生活を送れるようにマネジメントしていくことの重要性を再認識することが出来た.今後は慢性疼痛に対するアプローチ方法を病院全体に普及できるよう尽力したい.