[PD-10-3] 2症例間の比較による目標共有を取り入れた作業療法と触圧覚識別課題の併用効果
【はじめに】変形性膝関節症に対して推奨される整形外科的治療法に,全人工膝関節置換術(total knee arthroplasty;以下,TKA)があり,生活の質を向上させる有効な手段として確立されている(Ethgen 2004).その一方で,10~34%の割合でTKA術後に疼痛が遷延化するとされている(Johnson, 2020).TKA術後の疼痛遷延化には情動面に加え,身体知覚異常の関与が指摘されている(Hirakawa, 2014 ).疼痛の情動面に関しては,目標共有を取り入れた作業療法介入による効果が多数報告されているが,身体知覚異常の程度が強い者では目標共有介入のみでは効果が限定的であることも指摘されている(田中, 2020).そこで我々は,術後に身体知覚異常が高値であったTKA症例に対し目標共有と触圧覚識別課題を併用して行い,身体知覚異常の改善と共に,術後痛の良好な改善も得られたことを報告している(田中,2023).しかし,単一症例の結果であり自然回復の可能性も否定できないため,今回は初期状態の類似した2症例を対象に,併用介入の有無による効果検証を行った.
【方法】対象は右TKAを施行された80歳代の女性2名(以下,症例A,B)である.症例Aは術後15日で当院回復期リハビリテーション病棟へ転院,症例Bは術後18日目に自宅退院したが疼痛の増悪を認め,術後30日目に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院となった.当院に転院後,Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下,ADOC)を用いて目標設定を行い,目標に即した作業療法介入を開始した.評価項目として疼痛強度はNumerical Rating Scale(NRS),痛みの破局的思考はPain Catastrophizing Scale 短縮版(PCS-6),身体知覚異常はThe Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ)を用い,初期(介入時)と最終(退院時)でそれぞれ評価を行った.介入では,症例Aのみ目標に即した作業療法介入に加え,先行研究と同様に触圧覚識別課題を実施した.症例Bは目標に即した作業療法介入のみ実施し,介入前後による2症例間での比較を行った.尚,本研究は倫理審査委員会の承認(承認番号:R3-リハNo.1)を得て行った.
【結果】症例Aの最終評価では,疼痛強度は初期の夜間時痛7/10から3/10,PCS-6は初期の11/24から9/24と改善が認められた.FreKAQにおいても初期の15/36から6/36へ減少した.触圧覚識別課題においては,概ね50%以上の正答率で識別が可能となった.ADOC 満足度でも,初期の6/25点から21/25点へと改善を認めている.症例Bでは,疼痛強度は初期の4/10から,安静時・夜間時痛3/10,運動時痛4/10と大きな変化はなく,PCS-6は初期の9/24から16/24と増悪し,FreKAQにおいても初期の23/36から点数に変化は認められなかった.ADOC満足度では,初期2/25点から10/25点へと改善を認めている.
【考察】TKA術後に身体知覚異常が高値を示していた2症例を対象に,併用介入の有無による比較検証を行った.初期評価の結果から,2症例ともに身体知覚異常が疼痛強度に多分に影響を与えていたと推察される.目標に即した作業療法介入と並行し,触圧覚識別課題を実施した症例Aは疼痛強度に良好な改善を認めており,身体知覚機能の低下は疼痛強度の増悪に関与するという報告を考慮すると(Gilpin,2014),身体知覚異常の最適化に伴い疼痛強度に改善が得られたのではないかと考えられる.一方で症例Bでは臨床的に有意な疼痛強度の改善は得られなかった.本研究の結果から,複合的評価に基づき,身体知覚異常が高値である症例に対しては,身体知覚異常を介入対象とした作業療法も加えて検討することが,術後遷延痛予防の観点から有用ではないかと考えられた.
【方法】対象は右TKAを施行された80歳代の女性2名(以下,症例A,B)である.症例Aは術後15日で当院回復期リハビリテーション病棟へ転院,症例Bは術後18日目に自宅退院したが疼痛の増悪を認め,術後30日目に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院となった.当院に転院後,Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下,ADOC)を用いて目標設定を行い,目標に即した作業療法介入を開始した.評価項目として疼痛強度はNumerical Rating Scale(NRS),痛みの破局的思考はPain Catastrophizing Scale 短縮版(PCS-6),身体知覚異常はThe Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ)を用い,初期(介入時)と最終(退院時)でそれぞれ評価を行った.介入では,症例Aのみ目標に即した作業療法介入に加え,先行研究と同様に触圧覚識別課題を実施した.症例Bは目標に即した作業療法介入のみ実施し,介入前後による2症例間での比較を行った.尚,本研究は倫理審査委員会の承認(承認番号:R3-リハNo.1)を得て行った.
【結果】症例Aの最終評価では,疼痛強度は初期の夜間時痛7/10から3/10,PCS-6は初期の11/24から9/24と改善が認められた.FreKAQにおいても初期の15/36から6/36へ減少した.触圧覚識別課題においては,概ね50%以上の正答率で識別が可能となった.ADOC 満足度でも,初期の6/25点から21/25点へと改善を認めている.症例Bでは,疼痛強度は初期の4/10から,安静時・夜間時痛3/10,運動時痛4/10と大きな変化はなく,PCS-6は初期の9/24から16/24と増悪し,FreKAQにおいても初期の23/36から点数に変化は認められなかった.ADOC満足度では,初期2/25点から10/25点へと改善を認めている.
【考察】TKA術後に身体知覚異常が高値を示していた2症例を対象に,併用介入の有無による比較検証を行った.初期評価の結果から,2症例ともに身体知覚異常が疼痛強度に多分に影響を与えていたと推察される.目標に即した作業療法介入と並行し,触圧覚識別課題を実施した症例Aは疼痛強度に良好な改善を認めており,身体知覚機能の低下は疼痛強度の増悪に関与するという報告を考慮すると(Gilpin,2014),身体知覚異常の最適化に伴い疼痛強度に改善が得られたのではないかと考えられる.一方で症例Bでは臨床的に有意な疼痛強度の改善は得られなかった.本研究の結果から,複合的評価に基づき,身体知覚異常が高値である症例に対しては,身体知覚異常を介入対象とした作業療法も加えて検討することが,術後遷延痛予防の観点から有用ではないかと考えられた.