第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-2] ポスター:運動器疾患 2

Fri. Nov 10, 2023 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PD-2-6] クラリネット演奏が可能となった,示指切断症例に対する介入結果

鈴村 健太1, 石川 篤1, 村田 海1, 伊東 寛史1, 安保 雅博2 (1.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション医学講座)

【はじめに】今回,クラリネット演奏の再開を強く希望した,右示指末端部の切断の症例を担当した.クラリネット演奏の動作分析を行い,感覚障害に対して物品識別課題,Range of Motion(以下ROM)制限に対して腱滑走訓練を実施した.最終的に患者の希望した楽器演奏が可能となったため以下に報告する.
【倫理的配慮】本人に紙面上にて倫理的配慮の内容を説明し,同意を得た.
【症例】60歳代男性,オーケストラ楽団に所属していた.診断名は右示指切断(石川分類SubzoneII)であった.X年Y月Z日釣った魚に示指をかまれて切断した.当院にて再接着術施行するも血液循環不良により生着せず,X年Y+2月Z+13日に接着部壊死のため切除した.X年Y+5月Z+4日に作業療法を開始した.
【初期評価】断端はDIP関節から約1cm残存していた. ROMはDIP関節屈曲38°,伸展-12°であり,Semmes Weinstein Monofilament Test(以下SWT)は末節部にて4.31で防御知覚の低下を認めた.静的2点識別覚は右7㎜,左4㎜,動的2点識別覚は右6㎜,左4㎜であった.HAND20は50.5/100,趣味活動は9であった.クラリネット演奏の動作は,本来はDIP関節伸展位で,指腹を用いてクラリネットの穴(以下リングキー)を塞ぐことで,意図した音を出していた.また右示指は左手指に隠れるため,目視で確認することは困難であった.症例はDIP関節のROM制限により,示指の指腹ではなく指尖部でリングキーを塞ぐため空気が漏れてしまった.加えて感覚障害により適切な位置と強さでリングキーを塞ぐことができなかった.
【経過】介入は,外来リハビリテーションを週1回の頻度で実施した.動作獲得には,DIP関節伸展位保持と感覚障害の改善が必要であった.感覚障害に関して,演奏の際はリングキーに対して垂直方向の圧を触知する静的触覚の感覚受容器を賦活させる必要があると考えた.物品識別課題は物品に対して,指腹で垂直方向の圧をかけることにより,識別を行った.また形状や材質に着目し,段階付けを行った.介入5週目にはおはじきとボタン等の形状材質の同様な物品を使用した.開始時は正答率10%であったが,8週目には正答率50%程度の識別が可能となった.またROM制限に対してはストレッチや屈筋腱,伸筋腱の滑走訓練を行った.8週目にはROM可動域も改善を認め,示指の指腹で穴を押さえることが可能となった.
【最終評価】ROMはDIP関節屈曲46°,伸展-2°.SWTは末節部にて3.61,静的2点識別覚は右5㎜,動的2点識別覚は右4㎜,介入時より触覚の改善を認めた.HAND20は28/100で趣味活動は3であった.クラリネット演奏時は指腹にてリングキーを押さえる事が可能となり,空気が漏れることなく演奏を実施する事が出来た.
【考察】感覚障害について,指が物に触れる際は特定の受容器を選択的に高めることにより物品識別能力を上げていると述べている(当間ら,2000).今回,感覚受容器の中でも静的触覚に関する遅順応型の受容器に着目して介入を行った.これによりリングキーを押さえる際の垂直方向の圧を知覚しやすくなったと考える.ROM制限に関して,末節骨は手指の伸筋の付着部であり,滑走低下によるROM制限を生じやすく,滑走訓練の必要性を述べている(田口ら,2018).本症例に関しても,受傷部に付着する伸筋腱側索の滑走訓練を中心に実施したことにより, ROMの拡大を認めたと考えられる.静的触覚の改善とDIP関節のROM拡大により,リングキーを指腹で押さえるという動作が可能になったと考えられる.今回,クラリネット演奏という稀有な動作の分析により,必要な訓練を立案できたことが,症例の希望する動作獲得につながったと思われる.