第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-3] ポスター:運動器疾患 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-3-1] 回復期リハビリテーション病棟運動器疾患患者における健康関連QOLの変化と一致度の解明

泉 良太1, 佐野 哲也1, 能登 真一2, 長山 洋史3, 滝澤 宏和4 (1.聖隷クリストファー大学, 2.新潟医療福祉大学, 3.神奈川県立保健福祉大学, 4.新座病院)

【背景】昨今,リハビリテーション(リハ)分野においても健康関連QOL(HRQOL)尺度を用いた研究が散見されるようになった.しかしながら,HRQOLは対象者本人回答を原則としているため,認知障害や高次脳機能障害がある場合には信頼性のある評価が困難である.先行研究では,回復期リハ病棟の脳卒中患者においては,リハ前後でHRQOLは有意に向上し,本人回答と代理人回答の一致度が高いことが証明されているが(泉ら,2021),その他の疾患別リハ分類での調査はされていない.今後,回復期リハ病棟でHRQOL評価を実施していくためには,最も対象者数の多い,運動器疾患においてもHRQOLの変化や代理人回答が可能かどうかの調査が必須であると考えられる.
【目的】回復期リハ病棟入院中の運動器疾患患者のHRQOLの変化を明らかにすること及び本人回答と代理人回答の一致度を調査することを目的とした.
【方法】多施設間縦断的研究とし,対象は疾患別リハ分類に基づき,作業療法を受ける運動器疾患患者とし,MMSEが23点以下,本人回答が困難なものは除外した.評価時期は初期評価時(初期評価)と初期評価から1ヵ月後または退院転院時(再評価)に実施し,HRQOL尺度には,EQ-5D-5L,ADL尺度にはFIMを用いた.EQ-5D-5Lは,移動の程度,身の回りの管理,ふだんの活動,痛み/不快感,不安/ふさぎ込みという5つの健康領域に関して,5つの選択肢から健康状態を選択する質問票であり,QOL値は1.00~-0.025を示し,値が高いほどQOLが高いことを示す.なお,EQ-5D-5Lについては,本人回答とOTによる代理人回答を実施した.統計解析については,Stata16.1を用い,前後比較にはWilcoxon符号付順位和検定を実施し,有意水準は5%とした.本人回答と代理人回答の一致度については,本人回答を外的基準とし,級内相関係数(ICC)および重み付けカッパ係数を用いた.本研究の実施に当たっては,協力病院および本学倫理委員会の審査と承認を得ており,本人の同意を得た.また,本研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】対象は77名,年齢77.7±12.7歳,初期評価から再評価までは31.9±14.3日であった.診断名については,大腿骨頚部・近位部骨折が35名であり,半数弱を占めた.初期評価と再評価の比較では(初期評価/再評価),EQ-5D-5Lの本人回答は,(0.56±0.20/0.74±0.18),代理人回答は,(0.55±0.18/0.74±0.14),MMSEは,(26.0±4.7点/27.1±4.0点),FIMは,(86.9±17.1点/107.5±15.1点)であり,全ての項目で有意に向上した(p<0.01).QOL値の一致度については,初期評価0.68,再評価0.72であり,十分な一致度であった.EQ-5D-5Lの各項目の一致度は,初期評価時に0.33~0.56,再評価時に0.31~0.56であった.
【考察】本研究より,リハ前後でHRQOLが向上することが分かった.一致度については,代理人が家族の場合には,本人より低いQOL値を示すと報告されているが(William, et al. 2006),本研究では代理人をOTとしたため,一致度が高値を示したと考えられる.これは,回復期リハ病棟という特性上,対象者と1対1で接する時間が多いことから,精神面も含めた全身状態を把握しやすいことがあげられる.結論としては,OTによるHRQOLの代理人回答は,回復期リハ病棟の運動器疾患患者での本人回答が困難な対象者のQOL評価の参考とすることができる可能性があることが分かった.しかしながら,診断名や重症度による違いや評価時期によっても本人のQOLは変化するため,今後も丁寧に調査していく必要がある.