第57回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-4] ポスター:運動器疾患 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PD-4-6] 関節授動術と腱鞘再建術が施行された中指深指屈筋腱断裂の事例に対する作業療法

早崎 涼太1,2, 甲斐 将平2, 斉藤 夢乃2, 三浦 健太2, 安倍 大樹2 (1.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 2.北海道大野記念病院)

【はじめに】今回,右中指FDP腱断裂術後に腱剥離術が施行されたが,満足な治療成績が得られず,関節授動術と腱鞘再建術が追加で施行された事例を担当した.術後bowstringに留意した早期運動療法とsplintによる拘縮予防を行った結果,良好な治療成績とデマンドが達成できたため報告する.
【事例紹介】60歳代女性,右利き,飲食店勤務(主な仕事は調理).現病歴は,右中指狭窄性腱鞘炎に対し多数回のケナコルト注射歴があり,X−4週に中指DIP関節自動屈曲不能となった.他院で右中指FDP腱断裂と診断.X日に長掌筋腱を用いた遊離腱移植術を施行.X+3週より当院でOT開始したが,既に腱癒着に伴う高度なMP関節屈曲拘縮とDIP関節自動屈曲制限を呈しており改善が得られず,X+15週に腱剥離術が施行された.しかし,症状が残存し,本人の希望によりX+41週に観血的関節授動術と腱鞘再建術(Zancoli法)が施行された.なお,本報告に際し事例より書面で同意を得ている.【術前評価(X+41週時)】主訴は「中指に力が入りにくい」であり,デマンドは「調理器具を力強く握ってスムーズに盛り付けができる」であった.カナダ作業遂行測定(Canadian occupational performance measure:以下,COPM)で調理は重要度10点,遂行度4点,満足度4.中指ROMはMP関節 -40°/90°(-30°/90°),PIP関節 -2°/90°(0°/100°),DIP関節 0°/22°(10°/74°),PPD 12mm,%TAMは61%.握力(Rt/Lt)は12.0kg/24.0kg,DASHは機能/症状33.3点,仕事75点であった.
【手術所見】A1・A2 pulleyは瘢痕化により修復不能で,A4 pulleyは残存.FDPとFDSのchiasmaに癒着は認めず,滑走床との癒着部を剥離.基節骨部からMP関節掌側に生じた瘢痕組織と掌側板を切除し,側副靭帯周囲の癒着を剥離した結果, MP関節伸展0°まで改善.A2 pulleyの再建では,PL腱を基節骨背側と伸筋腱の間ならびにFDS腱とFDP腱の掌側に巻き,瘢痕化した基節骨周囲組織と5-0ナイロンで縫合.
【術後セラピィ】術後翌日の中指ROMはMP関節 -20°/80°(0°/82°),PIP関節0°/80°(0°/84°),DIP関節 0°/40°(10°/60°),PPD 8mm,%TAMは66.6であった.後療法は,腱癒着予防のため他動伸張による腱の遠位滑走,place and hold exerciseやtendon gliding exerciseによる近位滑走練習を実施した.なお,腱の近位滑走練習の際には,bowstringに伴う再建腱鞘部への負荷を軽減するために徒手的に圧迫を加えながらに実施した.自主練習として同様の練習を1 時間毎に行うよう指導した. MP関節屈曲拘縮予防を目的に手指伸展保持splintを作製し安静時と夜間時に装着させた.術後3週より外来通院へ移行し,握りやつまみなど手の運動パターンの獲得を目的とした練習を開始した.術後6週にblocking exerciseを追加し,制限が解除となった術後12週より,強度な筋力練習を開始した.
【結果(術後16週)】COPMは遂行度8点,満足度8となり,「調理器具がしっかり握れて,料理の盛り付けがスムーズにできるようになった」と発言を認めた.中指ROMはMP関節 -12°/90°(0°/90°),PIP関節 -2°/100°(0°/100°),DIP関節 0°/64°(10°/74°),PPD 0mm,%TAMは91%であった.握力(Rt/Lt)は18.0kg/24.0kgであり,DASHは機能/症状15.8点,仕事12.5点であった.
【考察】腱鞘再建術後早期よりの自動運動による滑走練習を行った場合,bowstingに伴い再建部が損傷するリスクがあるが,練習を行わなければ癒着が生じることとなる.今回,術後早期よりA2 pulley 再建部に徒手的に圧迫を加えながらbowstringを抑制し,腱の滑走練習を行ったことにより比較的良好な手指機能の獲得に繋がったと考えられる.