[PD-4-7] 破局的思考のある橈骨遠位端骨折患者に対し急性期で認知行動療法を導入した一例
【はじめに】
認知行動療法(以下:CBT)は認知・感情・行動・身体の4側面で構成され,出来事に対し認知(捉え方)や行動様式を変容させる事で問題の解決を図る心理療法である.慢性疼痛診療ガイドラインでは運動療法と併用してCBTを導入する事が推奨されているが,急性期での報告は少ない.今回,橈骨遠位端骨折により,破局的思考・不安・抑うつを呈した症例にCBTを導入した事で,退院後の生活に希望をもつ一助となった為報告する.尚,本発表に際し症例に同意を得ている.
【症例紹介・作業療法評価(術前)】
60歳代の女性で,仕事中(介護士)に転倒し左橈骨遠位端骨折・尺骨茎状突起骨折を受傷した.X線画像所見はAO分類TypeC3.患部外のROM・筋力に問題はなく,疼痛はNRS2,異常感覚もないが,表情は硬く過度に不安を感じていた.HAND20は135点(67.5%)で両手動作や力仕事は困難.FIMは110点でセルフケアは右手を使用し修正自立-自立していた.完璧主義・几帳面な性格で,自宅では家事全般を役割とし,仕事に対する責任感が強く,生き甲斐であると語られた.
【経過】
入院翌日に骨接合術が施行された.術後3日目にスプリントへ変更し,リハ時は手関節自動運動を開始した.経過は良好で疼痛やROMに改善を認めるが,「怪我して心が折れた,終活を考える.」「怪我した時を何度も思い出す.」等の繰り返される自動思考や「もう仕事ができない.」「復職したら受傷前と同程度の仕事を期待される.」と自分を追い込むような発言が聴取された.術後5日目に精神・心理的評価を行うと認知的側面は痛みの破局的思考尺度(以下:PCS):32点(反芻15・無力感12・拡大視5).情緒的側面はHospital Anxiety Depression Scale(以下:HADS):Anxiety11点・Depression15点.痛みの自己効力感尺度(以下:PSEQ):14点.QOLはPGCモラールスケール2点であった.その為,術後1週から疼痛や内服状況,自主練習等の外在化を促す目的で,痛み-活動日誌を活用したCBTを開始した.初期は「動くか不安,痛くなりそうで怖い.」「現実に向き合えない.」と記載があり,自主練習は患部外運動しか実施できなかった.毎日リハ時に内容を確認し,不安の傾聴や順調な経過で改善していく事を繰り返し伝えた.術後2週目から食器の把持や洗濯畳み等のADL・IADL練習を行い,取り組んだ事は記録し,努力を労い賞賛する声掛けやメッセージを綴った.術後3週頃には「できる事が増えて嬉しい,家事や家庭菜園が楽しみ.」等の前向きな内容に変化し,自主練習数も増加した.術後4週で退院が決まり,退院時アンケートには「大丈夫の言葉で頑張れた.」「文字にする事で気持ちの整理ができた.」「不安な時に日誌を振り返り良くなっている実感が持てた.」と記載があった.
【結果(術後4週)】
疼痛はNRS0.ROMは前腕回内60°,回外65°,手関節掌屈40°,背屈45°,橈屈15°,尺屈30°. HAND20は55点(27.5%)で重作業以外は改善し,FIMは125点で入浴に時間を要していた.PCS:9点(反芻4・無力感3・拡大視2)に改善し,HADS:Anxiety6点・Depression8点.PSEQ:46点.PGCモラールスケール11点で,復職への不安はあるが,運動機能の回復と共に精神面も改善がみられた.
【考察】
症例は完璧主義で,受傷により将来の不安が強く,痛みの恐怖-回避行動や抑うつ等多くの精神症状を認めた為,急性期でCBTを導入した.平川らは急性痛の慢性化予防の為に「術後医療においては可及的速やかに急性痛を鎮め,不要かつ過度な負の情動を生起させずに,活動量を回復・向上させる事が重要である」と述べている.破局的思考のある患者に,急性期の段階から認知・情緒面を踏まえた介入を行う事は,自らの認知の歪みに気づき,対処行動を可能とし,慢性疼痛の予防やuseful hand獲得の為に意義があると考える.
認知行動療法(以下:CBT)は認知・感情・行動・身体の4側面で構成され,出来事に対し認知(捉え方)や行動様式を変容させる事で問題の解決を図る心理療法である.慢性疼痛診療ガイドラインでは運動療法と併用してCBTを導入する事が推奨されているが,急性期での報告は少ない.今回,橈骨遠位端骨折により,破局的思考・不安・抑うつを呈した症例にCBTを導入した事で,退院後の生活に希望をもつ一助となった為報告する.尚,本発表に際し症例に同意を得ている.
【症例紹介・作業療法評価(術前)】
60歳代の女性で,仕事中(介護士)に転倒し左橈骨遠位端骨折・尺骨茎状突起骨折を受傷した.X線画像所見はAO分類TypeC3.患部外のROM・筋力に問題はなく,疼痛はNRS2,異常感覚もないが,表情は硬く過度に不安を感じていた.HAND20は135点(67.5%)で両手動作や力仕事は困難.FIMは110点でセルフケアは右手を使用し修正自立-自立していた.完璧主義・几帳面な性格で,自宅では家事全般を役割とし,仕事に対する責任感が強く,生き甲斐であると語られた.
【経過】
入院翌日に骨接合術が施行された.術後3日目にスプリントへ変更し,リハ時は手関節自動運動を開始した.経過は良好で疼痛やROMに改善を認めるが,「怪我して心が折れた,終活を考える.」「怪我した時を何度も思い出す.」等の繰り返される自動思考や「もう仕事ができない.」「復職したら受傷前と同程度の仕事を期待される.」と自分を追い込むような発言が聴取された.術後5日目に精神・心理的評価を行うと認知的側面は痛みの破局的思考尺度(以下:PCS):32点(反芻15・無力感12・拡大視5).情緒的側面はHospital Anxiety Depression Scale(以下:HADS):Anxiety11点・Depression15点.痛みの自己効力感尺度(以下:PSEQ):14点.QOLはPGCモラールスケール2点であった.その為,術後1週から疼痛や内服状況,自主練習等の外在化を促す目的で,痛み-活動日誌を活用したCBTを開始した.初期は「動くか不安,痛くなりそうで怖い.」「現実に向き合えない.」と記載があり,自主練習は患部外運動しか実施できなかった.毎日リハ時に内容を確認し,不安の傾聴や順調な経過で改善していく事を繰り返し伝えた.術後2週目から食器の把持や洗濯畳み等のADL・IADL練習を行い,取り組んだ事は記録し,努力を労い賞賛する声掛けやメッセージを綴った.術後3週頃には「できる事が増えて嬉しい,家事や家庭菜園が楽しみ.」等の前向きな内容に変化し,自主練習数も増加した.術後4週で退院が決まり,退院時アンケートには「大丈夫の言葉で頑張れた.」「文字にする事で気持ちの整理ができた.」「不安な時に日誌を振り返り良くなっている実感が持てた.」と記載があった.
【結果(術後4週)】
疼痛はNRS0.ROMは前腕回内60°,回外65°,手関節掌屈40°,背屈45°,橈屈15°,尺屈30°. HAND20は55点(27.5%)で重作業以外は改善し,FIMは125点で入浴に時間を要していた.PCS:9点(反芻4・無力感3・拡大視2)に改善し,HADS:Anxiety6点・Depression8点.PSEQ:46点.PGCモラールスケール11点で,復職への不安はあるが,運動機能の回復と共に精神面も改善がみられた.
【考察】
症例は完璧主義で,受傷により将来の不安が強く,痛みの恐怖-回避行動や抑うつ等多くの精神症状を認めた為,急性期でCBTを導入した.平川らは急性痛の慢性化予防の為に「術後医療においては可及的速やかに急性痛を鎮め,不要かつ過度な負の情動を生起させずに,活動量を回復・向上させる事が重要である」と述べている.破局的思考のある患者に,急性期の段階から認知・情緒面を踏まえた介入を行う事は,自らの認知の歪みに気づき,対処行動を可能とし,慢性疼痛の予防やuseful hand獲得の為に意義があると考える.