第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-8] ポスター:運動器疾患 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-8-2] 労災症状固定後に初めて義手リハビリテーションを実施し復職に至った右前腕切断事例

中川 雅樹1, 塚本 康司2, 中村 康二3, 今井 大樹3 (1.国立障害者リハビリテーションセンター病院リハビリテーション部作業療法, 2.国立障害者リハビリテーションセンター病院第一診療部, 3.国立障害者リハビリテーションセンター研究所義肢装具技術研究部)

<はじめに> 当センターでは上肢切断者に対し,機能的義手,能動義手,筋電電動義手を用いた義手リハビリテーションを実施し,社会復帰を支援している.
 通常,労働者災害補償保険(労災保険)で義手を製作する場合,治療用装具にて能動義手を,外科後処置にて筋電義手をそれぞれ試用評価し,適した義手を製作する.
 今回,急性期治療後に義手リハビリテーションを経験せず症状固定し,外科後処置にて当センターへ入院し,初めて義手リハビリテーションを実施した結果,義手を使用して復職に至ったため報告する.
<目的> 本報告の目的は,急性期治療後に義手リハビリテーションを実施せず症状固定されるイレギュラーな経過をたどった右前腕切断者1例の義手リハビリテーション経過を報告することである.
<倫理的配慮> 当センター倫理審査承認後,対象者とのインフォームド・コンセントを得ている.
<症例> 50代男性.右利き.仕事は部品製造業.家族構成は妻,娘.右上肢機能:前腕切断長断端(59%).ROMは橈尺骨に骨融合があり回内外0°.明らかな感覚障害,筋力低下はなく,義手使用に支障となる問題はない.ADLは残存肢で自立(Barthel Index 100)していた.主訴は,「義手を仕事で活用したい」であり,リハビリテーションに対する意欲は高かった.
<経過> X日受傷.右前腕切断術施行.X+170日断端形成術施行.X+369日 骨棘切除術施行.X+797日症状固定.X+841日 復職(作業を限定し片手で実施).X+952日 当院受診.X+1003日 入院.X+1046日 退院.X+1049日 復職(作業は両手で実施).
<義手リハビリテーションの経過> 義手操作練習(能動義手:X +1011~,筋電義手:X +1021~)は,基本操作練習,両手動作練習,応用動作練習(ADL動作,作業課題,仕事を想定した課題)を実施した.手先具は,能動フック,能動ハンド,電動ハンド,作業用電動ハンドをそれぞれの場面で用いた.義手操作は習熟し,生活場面で使用可能となった.
<最終評価> 身体機能,ADL(Barthel Index 100)とも著変なし.最終的に,日常生活では能動義手(フック式,ハンド式)と筋電義手(電動ハンド)を併用,仕事では能動義手(ハンド式)を使用して復職に至った.能動義手は本支給にいたり,筋電義手は試用評価継続中である.
<まとめ> 義手リハビリテーションが未経験なまま症状固定し,外科後処置で義手リハビリテーションを実施した.受傷から約3年経過,症状固定から約7ヶ月経過しており,症状固定後に初めて義手リハビリテーションを実施したイレギュラーな経過であった.当センターで義手リハビリテーション実施後,義手を製作し,入院から46日後に復職に至った貴重な症例であった.
 労災保険では,療養給付により治療,リハビリテーション,義手製作まで可能であり,能動義手,筋電義手の練習期間も確保されている.筋電義手支給については,制度開始から約10年経過するが,義手リハビリテーションを未経験の者がいた.労災保険制度の理解や普及が課題であると思われた.