[PD-8-6] 我が国のサリドマイド胎芽症者の痛みが日常生活に及ぼす影響
【はじめに】
日本では1958年以降に販売されたサリドマイド剤を服用した妊婦から上肢や耳の障害のある胎児が生まれ,309名がサリドマイド胎芽症(以下,胎芽症)と認定された.この胎芽症者が60歳前後となった今,上肢や耳の障害のほか,さまざまな形態の異常や関連する障害が明らかとなってきた.我々は,生活実態調査の結果から同年齢の一般国民に比べて肩こりや腰痛等の痛みを感じていることが多いことに着目し,その痛みが増悪すると「関節を動かしにくくなる」だけにとどまらず,「活動や仕事がしにくくなる」といった日常生活に影響を及ぼしていること,痛みへの対処の内容は効果を認めているが長続きはせず,結果として「それなりに治療はしているが,『痛み』は維持するのがやっとである」という主観的評価となっていることを明らかにした.今回は,この結果に関連して疼痛生活障害尺度(以下,PDAS)を使用し,日常生活に及ぼす影響とその変化を検討する
【方法】
調査内容をGoogleフォームで作成し,公益財団法人「いしずえ」(サリドマイド福祉センター)を通じて,268名の胎芽症者に協力を呼び掛けた.
回答の期間は2021年1月10日から2月25日,内容は年齢・性別・障害の程度・職業等の基本情報,部位が特定できる「痛み」の有無,対処の内容と頻度,増悪した時の生活への影響,主観的な効果とその持続の期間であり,その効果の評価としてPDASを用いた.
なお,倫理的配慮として,最初に研究の説明文を表示し,「同意する」と回答した場合のみ質問に進む設定とした.また,本研究は日本医療科学大学で研究倫理の承認を得て,実施した.
【結果】
94名(平均58.2歳)から同意と回答が得られた(回収率35.1%).耳に障害のある者に比べ上肢に障害のある者が多かった.職業では,事務従事者が最も多かった.
回答者94名のうち64名が「部位が特定できる痛みがある」と答え,この普段の痛みの程度はFace Rating Scaleで4(かなり痛い)が29名と多かった.これに対して,「主にしていること」の対処の内容は,「自費でマッサージや鍼灸を受けた:18名」が多かった.しかし,効果がどのくらい持続するのかについては,「1週間以内」とするものが多く,対処の内容の頻度も1週間以内が多かった.この64名のうちPDASに有効回答があった33名でマッサージ等を実施した前後を比較すると,Face Rating Scale のスコアが有意(p<0.01)に改善した.PDASの20項目では,「『車のドアを開けたり,閉めたりする』のはどのように感じますか」を除く19項目で有意(p<0.01)に改善していた.
【考察】
我が国の胎芽症者の多くが疼痛を訴え,痛みが増悪すると「関節が動かしにくくなる」といった心身機能だけではなく,活動制限や参加制約もあることが明らかとなっている.これらの痛みには「マッサージ等」を受け,PDASの20項目中19項目で改善を認めたが,その効果は1週間程度であった実態も明らかになったが,作業療法を含めたリハビリテーションの介入効果は明らかになってはいない.「慢性疼痛治療ガイドライン」では,「集学的リハビリテーション」を強く推奨しており,作業療法は「日常生活を支障なく送るための必要な動作の訓練を行う」ことが期待されている.今後は,心身機能の改善を図るとともに,ADLやIADL等の動作訓練やその代替方法の習得や福祉用具・自助具などの活用による環境整備等の胎芽症者へ治療・指導・援助を行い,その介入効果を明らかにしていくことが課題である.
日本では1958年以降に販売されたサリドマイド剤を服用した妊婦から上肢や耳の障害のある胎児が生まれ,309名がサリドマイド胎芽症(以下,胎芽症)と認定された.この胎芽症者が60歳前後となった今,上肢や耳の障害のほか,さまざまな形態の異常や関連する障害が明らかとなってきた.我々は,生活実態調査の結果から同年齢の一般国民に比べて肩こりや腰痛等の痛みを感じていることが多いことに着目し,その痛みが増悪すると「関節を動かしにくくなる」だけにとどまらず,「活動や仕事がしにくくなる」といった日常生活に影響を及ぼしていること,痛みへの対処の内容は効果を認めているが長続きはせず,結果として「それなりに治療はしているが,『痛み』は維持するのがやっとである」という主観的評価となっていることを明らかにした.今回は,この結果に関連して疼痛生活障害尺度(以下,PDAS)を使用し,日常生活に及ぼす影響とその変化を検討する
【方法】
調査内容をGoogleフォームで作成し,公益財団法人「いしずえ」(サリドマイド福祉センター)を通じて,268名の胎芽症者に協力を呼び掛けた.
回答の期間は2021年1月10日から2月25日,内容は年齢・性別・障害の程度・職業等の基本情報,部位が特定できる「痛み」の有無,対処の内容と頻度,増悪した時の生活への影響,主観的な効果とその持続の期間であり,その効果の評価としてPDASを用いた.
なお,倫理的配慮として,最初に研究の説明文を表示し,「同意する」と回答した場合のみ質問に進む設定とした.また,本研究は日本医療科学大学で研究倫理の承認を得て,実施した.
【結果】
94名(平均58.2歳)から同意と回答が得られた(回収率35.1%).耳に障害のある者に比べ上肢に障害のある者が多かった.職業では,事務従事者が最も多かった.
回答者94名のうち64名が「部位が特定できる痛みがある」と答え,この普段の痛みの程度はFace Rating Scaleで4(かなり痛い)が29名と多かった.これに対して,「主にしていること」の対処の内容は,「自費でマッサージや鍼灸を受けた:18名」が多かった.しかし,効果がどのくらい持続するのかについては,「1週間以内」とするものが多く,対処の内容の頻度も1週間以内が多かった.この64名のうちPDASに有効回答があった33名でマッサージ等を実施した前後を比較すると,Face Rating Scale のスコアが有意(p<0.01)に改善した.PDASの20項目では,「『車のドアを開けたり,閉めたりする』のはどのように感じますか」を除く19項目で有意(p<0.01)に改善していた.
【考察】
我が国の胎芽症者の多くが疼痛を訴え,痛みが増悪すると「関節が動かしにくくなる」といった心身機能だけではなく,活動制限や参加制約もあることが明らかとなっている.これらの痛みには「マッサージ等」を受け,PDASの20項目中19項目で改善を認めたが,その効果は1週間程度であった実態も明らかになったが,作業療法を含めたリハビリテーションの介入効果は明らかになってはいない.「慢性疼痛治療ガイドライン」では,「集学的リハビリテーション」を強く推奨しており,作業療法は「日常生活を支障なく送るための必要な動作の訓練を行う」ことが期待されている.今後は,心身機能の改善を図るとともに,ADLやIADL等の動作訓練やその代替方法の習得や福祉用具・自助具などの活用による環境整備等の胎芽症者へ治療・指導・援助を行い,その介入効果を明らかにしていくことが課題である.