[PE-1-3] 急速な症状進行を呈したALS患者への看取りまでの関わり
【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者への支援の中で,南雲ら(2011)は様々な活動の根幹を担うコミュニケーション手段の確保は必須であると述べている.今回,頸部・上肢優位の急速な症状進行を認めたALS患者を担当し,コミュニケーション手段確保と環境整備を中心に段階的な支援を行ったことで,症状が進行し看取りに至るまで意思疎通が図れたため経過を含め以下に報告する.なお本症例報告に際し当院倫理員会の承認と,症例から同意を得ている.
【事例紹介】50代女性.X-2年に構音障害を認め,Y-6月から筋力低下が急速に進行しALSと診断された.重度の嚥下障害と唾液貯留に伴う呼吸苦のため,喉頭摘出術と胃瘻増設を受け X年Y月Z日当院へ入院.人工呼吸器は希望されなかった.病前は独居でADL,IADLは自立.主訴はおしゃべり・動画視聴がしたい.方向性は一時帰宅し可能であれば自宅退院.主治医の予後予測は,症状が週ごとに悪化しており早ければY+5月頃に呼吸不全となる可能性があるとのことだった.
【初期評価】MMTは頸部1,上肢近位筋2,遠位筋3,下肢は4.コミュニケーションは側腹つまみでペンを把持し筆談とうなずきにて疎通可能.起居は最大介助,端坐位見守り,歩行軽介助(頭頚部保持).ADLはベッド上にてほぼ全介助.トイレは歩行で移動し立位保持は可能だった.
【介入と経過】
[第一期 歩行・筆談が可能な時期] コミュニケーションは筆談と足で指せるニードボードに加え,伝の心を導入し操作練習開始.スイッチはジェリービーンを2つ使用し下肢で操作できるようにした.さらに最も使いやすい操作時用のポジショニング(長坐位)で伝の心の操作時間延長を促し,徐々に安静時(臥位)での操作に移行していった.
[第二期 歩行が困難・ベッド上排泄となった時期] 筆談困難となり伝の心とニードボードでの疎通となった.ニードの変更・増減に対し,ニードを養生テープに書き,A氏の下肢が届く大きさでラミネートした盤に貼れるよう調整した.
[第三期 疼痛・呼吸苦に対し麻薬が開始となった時期] 目のかすみの訴えあり,目の前に提示できる四項目に分けたニードボードをうなずきで選択できるよう調整.下肢の届く範囲は狭小化していたため,ニードを減らして対応した.
[第四期 看取りまで] 筋力低下,麻薬による覚醒不良の影響で伝の心操作が困難なことが増加.ピエゾやエアバックセンサなど筋力低下に合わせたスイッチへの変更を検討したが,覚醒不良や身体機能面への要求が多く十分に練習が行えず獲得には至らなかった.上記のボードを瞬きにて使用し,よく使う単語や緊急性の高いニードなど意思を汲み取ることはできた.Z+232日死亡退院された.
【結果】コミュニケーションと環境整備に対して段階的に支援を行い,全病期において意思疎通を図ることができた.
【考察】今回,急速な症状進行を呈したALS患者を担当し,看取りに至るまで意思疎通を図ることができた.その要因としては大きく三つ,一つ目はポジショニングをまずはコミュニケーション中心に検討し,意思疎通が行える状況で本人のニードを聴取し,安心感に繋げたこと.二つ目は症状に合わせて臨機応変に対応できるよう,簡便ですぐに変更できる物品を使用し,他職種でも調整できるようにしたこと.三つ目は,病状が不安定な状態では導入が難しいハイテクノロジーだけでなく,ローテクノロジーも併用したことで,状況に応じて本人が使用する手段を選択できる環境を整えたことが挙げられる.経過を通して本人の訴えるニードを多職種で共有し,意思疎通に難渋する際も要求に対応できるよう準備しておく必要性があると考える.
【事例紹介】50代女性.X-2年に構音障害を認め,Y-6月から筋力低下が急速に進行しALSと診断された.重度の嚥下障害と唾液貯留に伴う呼吸苦のため,喉頭摘出術と胃瘻増設を受け X年Y月Z日当院へ入院.人工呼吸器は希望されなかった.病前は独居でADL,IADLは自立.主訴はおしゃべり・動画視聴がしたい.方向性は一時帰宅し可能であれば自宅退院.主治医の予後予測は,症状が週ごとに悪化しており早ければY+5月頃に呼吸不全となる可能性があるとのことだった.
【初期評価】MMTは頸部1,上肢近位筋2,遠位筋3,下肢は4.コミュニケーションは側腹つまみでペンを把持し筆談とうなずきにて疎通可能.起居は最大介助,端坐位見守り,歩行軽介助(頭頚部保持).ADLはベッド上にてほぼ全介助.トイレは歩行で移動し立位保持は可能だった.
【介入と経過】
[第一期 歩行・筆談が可能な時期] コミュニケーションは筆談と足で指せるニードボードに加え,伝の心を導入し操作練習開始.スイッチはジェリービーンを2つ使用し下肢で操作できるようにした.さらに最も使いやすい操作時用のポジショニング(長坐位)で伝の心の操作時間延長を促し,徐々に安静時(臥位)での操作に移行していった.
[第二期 歩行が困難・ベッド上排泄となった時期] 筆談困難となり伝の心とニードボードでの疎通となった.ニードの変更・増減に対し,ニードを養生テープに書き,A氏の下肢が届く大きさでラミネートした盤に貼れるよう調整した.
[第三期 疼痛・呼吸苦に対し麻薬が開始となった時期] 目のかすみの訴えあり,目の前に提示できる四項目に分けたニードボードをうなずきで選択できるよう調整.下肢の届く範囲は狭小化していたため,ニードを減らして対応した.
[第四期 看取りまで] 筋力低下,麻薬による覚醒不良の影響で伝の心操作が困難なことが増加.ピエゾやエアバックセンサなど筋力低下に合わせたスイッチへの変更を検討したが,覚醒不良や身体機能面への要求が多く十分に練習が行えず獲得には至らなかった.上記のボードを瞬きにて使用し,よく使う単語や緊急性の高いニードなど意思を汲み取ることはできた.Z+232日死亡退院された.
【結果】コミュニケーションと環境整備に対して段階的に支援を行い,全病期において意思疎通を図ることができた.
【考察】今回,急速な症状進行を呈したALS患者を担当し,看取りに至るまで意思疎通を図ることができた.その要因としては大きく三つ,一つ目はポジショニングをまずはコミュニケーション中心に検討し,意思疎通が行える状況で本人のニードを聴取し,安心感に繋げたこと.二つ目は症状に合わせて臨機応変に対応できるよう,簡便ですぐに変更できる物品を使用し,他職種でも調整できるようにしたこと.三つ目は,病状が不安定な状態では導入が難しいハイテクノロジーだけでなく,ローテクノロジーも併用したことで,状況に応じて本人が使用する手段を選択できる環境を整えたことが挙げられる.経過を通して本人の訴えるニードを多職種で共有し,意思疎通に難渋する際も要求に対応できるよう準備しておく必要性があると考える.