第57回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-6] ポスター:神経難病 6

Sat. Nov 11, 2023 11:10 AM - 12:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PE-6-1] ブラッシュアップ入院患者に対して実施した主観的効果調査について

土佐 圭子, 久野 郁子, 菅原 由貴子, 鈴木 康子 (埼玉県総合リハビリテーションセンターリハビリテーション部作業療法科)

【はじめに】当センターでは,神経難病患者に対しブラッシュアップ入院を実施している.入院効果は様々な研究で報告されているが,患者の中には退院後の転倒による骨折などで再入院する場合も散見される.したがって退院後の身体機能・能力の変化を追跡する必要性があるが,それらの先行研究はほぼ皆無である.我々はこれを明らかにするために,ブラッシュアップ入院を実施した患者に対し,2021年9月から主観的効果調査を実施している.今回は主観的効果調査の紹介と調査結果について報告する. *本研究は当センター倫理委員会の承認済み
【主観的効果調査とは】主観的効果調査は,退院時にブラッシュアップ入院の主観的な効果を把握し,退院1ヶ月後に退院後の主観的な身体機能・能力を把握することを目的に実施している.調査は中馬らのアンケートを参考に作成した.身体機能・能力についての総合評価と14項目(歩行,転倒回数,姿勢,寝返り・起き上がり,ADL,話し方,声の大きさ,飲み込み,むせ込み,運動量,柔軟性,体力・疲労感,力の入り方,書字)について,患者が主観的に5段階(5:良くなった,4:少し良くなった,3:変わらない,2:少し悪くなった,1:悪くなった)で評価する調査である.
【対象者】当センターに2021年9月20日〜2022年12月31日にブラッシュアップ入院し,かつ退院1ヶ月後に調査可能であった患者37名とした.内訳は,パーキンソン病25名,脊髄小脳変性症3名,多系統萎縮症3名,進行性核上性麻痺3名,大脳基底核変性症2名,パーキンソン症候群1名.男性14名,女性23名,平均年齢70.2±8.5歳,平均罹病期間10.1±7.6年,平均入院期間35.9±10.8日,Mini Mental State Examination-Japan27.9±2.7点,Montreal Cognitive Assessment-Japan25.4±4.4点,退院時Functional Independence Measure74.3±10.0点であった(平均値±標準偏差).
【方法】調査は作業療法士が対面で行った.結果の分析は,退院時と退院1ヶ月後の総合評価の平均点,14項目の各平均点を算出し比較した(Wilcoxonの符合付順位検定).
【結果】
(1)退院時の平均点
 総合評価は3.9±0.9点であった.14項目の平均点は5段階の3以上であり,運動量4.2±0.7点,転倒回数4.0±1.0点,歩行3.9±0.8点,姿勢3.9±0.8点,力の入り方3.7±0.8点の順で高かった.
(2)退院1ヶ月後の平均点
 総合評価は2.6±1.0点であった.寝返り・起き上がり,むせこみ,柔軟性,書字の4項目の平均点は5段階の3以上であったが,それ以外の下位項目は3未満であった.体力・疲労感2.5±0.8点,歩行2.7±1.1点,姿勢2.7±0.9点,転倒回数2.8±0.9点,力の入り方2.8±0.7点の順で低かった.
(3)退院時と退院1ヶ月後の平均点の比較
 退院1ヶ月後の平均点は退院時に比べ総合評価と14項目で低下しており,書字を除いた13項目全てで有意差を認めた(p<0.01).
【考察】本調査では,主観的な面でもブラッシュアップ入院の効果はあり,退院1ヶ月後の身体機能・能力は低下を感じていることが分かった.入院で感じた改善は維持しにくいものであることが示唆された.また退院時に改善を感じた項目と,退院1ヶ月後に低下を感じた項目はほとんどが共通していた.これらの項目が改善を感じやすく,かつ低下も感じやすいことは分かったが,その理由は物理的な環境,服薬,転倒予防対策,運動量,介入職種などが複合的に影響していると考える.今後は調査内容の検討や,退院1ヶ月後の身体機能・能力評価,介助者の客観的な評価を合わせて実施するなど,多角的に退院後の身体機能・能力変化を追跡していきたい.
【参考文献】中馬孝容:在宅を支えるリハビリテーション医療, Journal of clinical rehabilitation, 30(5),465-473,2021