[PH-12-3] 精神科入院患者に対するメタ認知トレーニング日本語版の実施が認知的洞察および自己効力感に与える影響について
【はじめに】メタ認知トレーニング日本語版(以下MCT-J)は,Moritzらによって2007年に開発され,石垣によって2012年に日本語に翻訳された統合失調症向けの認知行動療法的アプローチおよび心理的介入技法の一つである.本邦ではその実践報告や症状改善に対する効果測定の報告は多いが,認知的洞察の変化後どのように行動が変容したかについての報告は乏しい.そこで本研究では,行動変容の一要因である自己効力感にも着眼し,精神一般病棟に入院中の患者に対するMCT-J実施が認知的洞察と自己効力感に与える影響を調査した.
【方法】2022年7月~2022年10月に精神一般病棟入院中の患者(亜急性期から回復期)のうち,MCT-Jの1クール(7回)の内4回以上に参加した21名{統合失調症12名(以下SZ群),その他の精神疾患9名(以下SZ以外群)}を対象とした.MCT-Jは週1回90分,グループの開放度をオープンで実施した.評価尺度は介入前後にベック認知的洞察尺度日本語版(以下BCIS-J)と一般性自己効力感尺度(以下GSES),介入後にMCT-J満足度調査を施行した. BCIS-JではSZ群とSZ以外群に分類,GSESでは合計点の5段階評定を参考に,セルフエフィカシー(以下SE)低い群(標準化得点21~34,n=8)SE普通群(標準化得点35~52,n=7)SE高い群(標準化得点53~70,n=6)に分類,統計的有意水準は5%未満とし,解析にはStatcel4を使用した.尚,研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,同意を得た.
【結果】対象者の平均参加回数は5.95±1.13回であった.MCT-J満足度調査では先行研究と比較して,「6)楽しかった」(3.57±1.79点),「8)目的や理論を十分理解することができた」(3.29±1.39点)等の6項目で得点が高く,「4)治療にとって重要だった」(3.04±1.56点),「7)学んだことの多くは,日々の生活に役立っている」(2.71±1.24点)等の6項目で得点が低かった.BCIS-JではSZ群の自己確信性因子において,介入後の方が有意に低かった(p<0.05). GSESではSE高い群で失敗に対する不安の項目において,介入後の方が有意に低かった(p<0.01).またSE低い群では全項目で得点が上がったが,有意差は認められなかった.
【考察】MCT-J満足度調査より,半数以上の人が定期的に楽しく参加し,学習目標や目的を理解することができていたが,生活への般化に至らなかった.本研究では,治療構造と対象層に合わせモジュール内容を簡潔にまとめ,個人目標設定やホームワーク等を省略し,クイズを楽しむ雰囲気作りを重視したため治療として捉えにくかったと考えられる.BCIS-Jより,介入前後で有意な差が生じた項目はSZ群の自己確信性因子であり,自己の判断や信念の確信の強さ,他者の意見への抵抗感が減少する可能性が示唆された.記憶への過信や認知バイアスの気付きを促した事,他者の意見を聞く場を用いた事が影響したと考えられる.モジュール内の疾患に限定した内容は,簡潔に口頭説明で済ませたため,統合失調症特有の誤った認知の気付きを修正できるまでに至らず,自己内省性因子では改善がみられなかったと考えられる.GSESではSE低い群で有意な差は認められなかったが,全項目で得点が上がった.定期的な参加により所属意識が生まれ,発言した内容が他者に受け止められるなどの受容的体験,ワークを通じて代理体験することや言語的な励ましを得たためと考えられる.有意差が生じなかった要因として,研究対象を入院加療中(亜急性期から回復期)の方としたため,精神症状の不安定さが影響したと考えられる.今後はモジュールの見直し,ホームワークの導入や個人目標設定,追跡評価を実施してブラッシュアップしていく.
【方法】2022年7月~2022年10月に精神一般病棟入院中の患者(亜急性期から回復期)のうち,MCT-Jの1クール(7回)の内4回以上に参加した21名{統合失調症12名(以下SZ群),その他の精神疾患9名(以下SZ以外群)}を対象とした.MCT-Jは週1回90分,グループの開放度をオープンで実施した.評価尺度は介入前後にベック認知的洞察尺度日本語版(以下BCIS-J)と一般性自己効力感尺度(以下GSES),介入後にMCT-J満足度調査を施行した. BCIS-JではSZ群とSZ以外群に分類,GSESでは合計点の5段階評定を参考に,セルフエフィカシー(以下SE)低い群(標準化得点21~34,n=8)SE普通群(標準化得点35~52,n=7)SE高い群(標準化得点53~70,n=6)に分類,統計的有意水準は5%未満とし,解析にはStatcel4を使用した.尚,研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,同意を得た.
【結果】対象者の平均参加回数は5.95±1.13回であった.MCT-J満足度調査では先行研究と比較して,「6)楽しかった」(3.57±1.79点),「8)目的や理論を十分理解することができた」(3.29±1.39点)等の6項目で得点が高く,「4)治療にとって重要だった」(3.04±1.56点),「7)学んだことの多くは,日々の生活に役立っている」(2.71±1.24点)等の6項目で得点が低かった.BCIS-JではSZ群の自己確信性因子において,介入後の方が有意に低かった(p<0.05). GSESではSE高い群で失敗に対する不安の項目において,介入後の方が有意に低かった(p<0.01).またSE低い群では全項目で得点が上がったが,有意差は認められなかった.
【考察】MCT-J満足度調査より,半数以上の人が定期的に楽しく参加し,学習目標や目的を理解することができていたが,生活への般化に至らなかった.本研究では,治療構造と対象層に合わせモジュール内容を簡潔にまとめ,個人目標設定やホームワーク等を省略し,クイズを楽しむ雰囲気作りを重視したため治療として捉えにくかったと考えられる.BCIS-Jより,介入前後で有意な差が生じた項目はSZ群の自己確信性因子であり,自己の判断や信念の確信の強さ,他者の意見への抵抗感が減少する可能性が示唆された.記憶への過信や認知バイアスの気付きを促した事,他者の意見を聞く場を用いた事が影響したと考えられる.モジュール内の疾患に限定した内容は,簡潔に口頭説明で済ませたため,統合失調症特有の誤った認知の気付きを修正できるまでに至らず,自己内省性因子では改善がみられなかったと考えられる.GSESではSE低い群で有意な差は認められなかったが,全項目で得点が上がった.定期的な参加により所属意識が生まれ,発言した内容が他者に受け止められるなどの受容的体験,ワークを通じて代理体験することや言語的な励ましを得たためと考えられる.有意差が生じなかった要因として,研究対象を入院加療中(亜急性期から回復期)の方としたため,精神症状の不安定さが影響したと考えられる.今後はモジュールの見直し,ホームワークの導入や個人目標設定,追跡評価を実施してブラッシュアップしていく.