[PH-12-4] 作業療法計画立案における検査結果の活用とその有効性の検討
【序論】
認知機能障害は統合失調症患者の機能的転帰を予測する重要因子である(池淵,2019).しかし,作業療法計画立案における認知機能の検査結果の効果的な活用方法に関する報告は少ない.
【目的】
The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia(以下,BACS-J)の得点と検査中の観察事項を作業療法計画に活用した実践を通し,その活用方法と重度認知機能障害を持つ対象者の作業遂行の成功体験を支援するうえでの有効性を報告する.
【方法】
事例は50歳代半ば,女性,統合失調症で夫と2人暮らしであった.高校生で発症し,50歳代前半に自傷行為等が出現し初回入院した.失踪先で倒れて今回3回目の入院をした.入院後も症状が持続し,合目的的活動が困難で薬剤調整継続中であった.食べ物の丸のみ,脱衣所から全裸で廊下に飛び出す等がありADLは要介助であった.症状評価目的で入院44日目から作業療法(以下,OT)を開始した.陽性・陰性症状評価尺度合計108点,服薬量はクロルプロマジン換算1100mg/日であった.
初期評価:週2回計4回個別で,ストレッチを最大20分/回,病室で実施した.3回目以降は短い口頭指示のみで一部遂行できた.OT時間に入浴が重ならないよう職員に依頼する等の自発的言動があった.BACS-J(検査時間45分)ではcomposite Z-Score -3.37で重度認知機能障害を認めた.運動機能課題と注意・情報処理速度課題における-1以上のZ-Scoreと,検査中の自然な身体の使い方から,目と手の協調・視覚情報理解は比較的保たれていると評価した(A).言語性記憶課題と意味流暢性課題の各施行後半の重複回答から,思考し続けると混乱すると評価した(B).ワーキングメモリ課題の4桁目での出題されていない数字の回答,遂行機能課題においてルールを追加で聞くと他のルールを忘れることの繰り返しから,情報の複数保持は困難と評価した(C).言語性記憶課題とワーキングメモリ課題では下降した正答数の上昇があり,短時間の集中制御は可能と評価した(D).短期目標(2週間):創作活動を20分できる.計画:週5回個別OT(創作活動,OT室).評価結果B・Dから,最大20分/回で頻回休憩を設定した.Aから作業結果が視覚的にわかりやすい構成的作業である簡単な折り紙を設定し,A・Cから工程毎の図付き説明書と毎回のOT終了時に短期目標達成を〇×で記入する記録用紙を準備した.Cから一つの短文に一つの情報のみ入れて伝える,Aから指差し等の視覚情報を足すという関わり方が必要と判断した.事例から発表の同意を得ている.
【経過と結果】
計6回実施した.折り紙(20分×2回)では図や口頭指示では理解できず,作業療法士の模倣で遂行できた.シール貼り絵(20-30分×2回)では,対応する番号のシールを貼ることは概ねでき,貼る位置のずれ等は口頭指示で修正できた.砂絵(35分×2回)では口頭指示で行動抑制ができず,視覚的にわかりやすい工程から実施する等工夫をした.疎通不良で実施不可の日があったが,事例は「新しいことができてよかった」「楽しい」等と述べた.短期目標:達成.
病棟内での症状・ADLに改善はなかった.服薬量1300mg/日に増量された.
【考察】BACS-Jの得点と検査中の観察事項のOT計画への活用は,重度認知機能障害を有する事例の作業遂行を可能にし,「できてよかった」と思える成功体験に繋がったと考えられる.検査結果とその観察事項の活用は,対象者の個別性に合わせた根拠に基づくOT計画立案に役立ち,そのOTは重度の症状がある対象者の作業遂行を可能にし,成功体験の提供に貢献できる.
認知機能障害は統合失調症患者の機能的転帰を予測する重要因子である(池淵,2019).しかし,作業療法計画立案における認知機能の検査結果の効果的な活用方法に関する報告は少ない.
【目的】
The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia(以下,BACS-J)の得点と検査中の観察事項を作業療法計画に活用した実践を通し,その活用方法と重度認知機能障害を持つ対象者の作業遂行の成功体験を支援するうえでの有効性を報告する.
【方法】
事例は50歳代半ば,女性,統合失調症で夫と2人暮らしであった.高校生で発症し,50歳代前半に自傷行為等が出現し初回入院した.失踪先で倒れて今回3回目の入院をした.入院後も症状が持続し,合目的的活動が困難で薬剤調整継続中であった.食べ物の丸のみ,脱衣所から全裸で廊下に飛び出す等がありADLは要介助であった.症状評価目的で入院44日目から作業療法(以下,OT)を開始した.陽性・陰性症状評価尺度合計108点,服薬量はクロルプロマジン換算1100mg/日であった.
初期評価:週2回計4回個別で,ストレッチを最大20分/回,病室で実施した.3回目以降は短い口頭指示のみで一部遂行できた.OT時間に入浴が重ならないよう職員に依頼する等の自発的言動があった.BACS-J(検査時間45分)ではcomposite Z-Score -3.37で重度認知機能障害を認めた.運動機能課題と注意・情報処理速度課題における-1以上のZ-Scoreと,検査中の自然な身体の使い方から,目と手の協調・視覚情報理解は比較的保たれていると評価した(A).言語性記憶課題と意味流暢性課題の各施行後半の重複回答から,思考し続けると混乱すると評価した(B).ワーキングメモリ課題の4桁目での出題されていない数字の回答,遂行機能課題においてルールを追加で聞くと他のルールを忘れることの繰り返しから,情報の複数保持は困難と評価した(C).言語性記憶課題とワーキングメモリ課題では下降した正答数の上昇があり,短時間の集中制御は可能と評価した(D).短期目標(2週間):創作活動を20分できる.計画:週5回個別OT(創作活動,OT室).評価結果B・Dから,最大20分/回で頻回休憩を設定した.Aから作業結果が視覚的にわかりやすい構成的作業である簡単な折り紙を設定し,A・Cから工程毎の図付き説明書と毎回のOT終了時に短期目標達成を〇×で記入する記録用紙を準備した.Cから一つの短文に一つの情報のみ入れて伝える,Aから指差し等の視覚情報を足すという関わり方が必要と判断した.事例から発表の同意を得ている.
【経過と結果】
計6回実施した.折り紙(20分×2回)では図や口頭指示では理解できず,作業療法士の模倣で遂行できた.シール貼り絵(20-30分×2回)では,対応する番号のシールを貼ることは概ねでき,貼る位置のずれ等は口頭指示で修正できた.砂絵(35分×2回)では口頭指示で行動抑制ができず,視覚的にわかりやすい工程から実施する等工夫をした.疎通不良で実施不可の日があったが,事例は「新しいことができてよかった」「楽しい」等と述べた.短期目標:達成.
病棟内での症状・ADLに改善はなかった.服薬量1300mg/日に増量された.
【考察】BACS-Jの得点と検査中の観察事項のOT計画への活用は,重度認知機能障害を有する事例の作業遂行を可能にし,「できてよかった」と思える成功体験に繋がったと考えられる.検査結果とその観察事項の活用は,対象者の個別性に合わせた根拠に基づくOT計画立案に役立ち,そのOTは重度の症状がある対象者の作業遂行を可能にし,成功体験の提供に貢献できる.